幽霊観

2017.03.29.Wed.21:12

「それはあり得ないでしょ。」 

俺が知り合いから聞いてきた心霊話をした所、当時親友だったSはこう返して来た。 

「友人とだべっていたら、足だけが目の前を歩いて行った…」 

こんな話を別の「見える」友達から聞いて、Sに話したのだったと思う。 

このSは俺が生きてきた今までの中で最強と言っても過言ではない、「見える」人、だった。 

彼の実家はクリーニング業を営んでいたが、親父さんが何故か坊さんの免許(?)を持っている人で、 

家族一家総ぐるみで強力な霊感の持ち主だった。 

当時俺は学生で、大学のすぐ近くに一人暮らしをしていた同じ専攻のSの部屋は皆の溜まり場になる事も多かった。 

彼女もいなく、暇だった為一人でSの部屋に遊びに行く事が多く、その日もそうだった。

「霊ってのはさ」 

一人暮らし御用達の小さなテーブルの向こうでSが缶ビールを片手に話始めた。 

「死に方によって色んなケースがあるけど、基本的には生前の意識のままなんだよね。」 

うんうん、と俺は頷きながら続きを促した。 

「身体の事で言ったら…自分の体には頭があって、目で物を見て口で話し、耳で音を聞き、手で物を持って、足で移動する。 

で、その頭や腕、足はボディに繋がっていて、それ全体で自分の身体として認識してるよね?」 

そりゃそうだ。俺は頷くしかない。 

「だからその足だけが歩いていた、ってのは本来無い筈なんだ。」 

Sは自分の実体験を元に自分の心霊に対する理論をもっている男で、 

怖い話が好きなだけの俺はいつも圧倒され、ただ話を聞くだけの側に回ってしまっていた。 

だからオカ板でSが言っていた事と同じ様な内容の書き込みを見かけると、妙に納得している自分がいるw 

俺自身には多分霊感は無いとは思うが、周りに霊感の強い人間がいると、その影響を受けてしまう事があった。 

このSと一緒にいた時期は、生涯で一番酷かったと思うw

「…って事はよ?」 

やっと回ってきた自分のターン。 

「そこら辺ほっつき歩いてる人間の霊は全て、五体満足なカラダのカタチをしていないとおかしい訳?」 

Sは淡々とした口調で答えた。 

「まぁ、例外も無い事はないけど、基本的にはそう。」 

よくある心霊話には首だけが浮いているとか、手だけがあるとかいう話があるだけに、俺は余り合点が行かなかった。 

でも確かにSの言っている内容には説得力があり、俺はちょっと頭を悩ませた。 

一つこれまたよく聞く心霊話のネタをふと思い出し、Sにぶつけてみた。 

「じゃあさ、手だけが壁から出て来て引っ張られるって話よくあるじゃない?あれはどうよ。」 

今まで真面目だったSの表情がパッと明るくなった。 

「あ、それ経験あるww」 

Sは笑いながら口にビールを運ぶ。 

「マジでっ!?!?」 

本当、このSという男は驚嘆に値すると思った。 

この件だけでなく、聞いた事のある様な心霊話にある事は大抵経験済みなのである。 

「師匠シリーズ」の「師匠」が実在したとしたら、Sはタメ線を張れるのではないか。 

もしくはウニが実はSで、経験を元に書いているのではないか、そんな妄想に取り付かれてしまう程だ。 

だがSから色々な話を聞き出すのは骨が折れる思いだった。 

ソフトな経験談位なら喜んで聞かせてくれるのだが、ある一線を越える内容になると口を噤んでしまうのだ。 

こちらがもう土下座する位の勢いで頼んでも、 

「いや、これは聞かない方が良いと思うよ。」 

と言って梃でも動かなくなってしまう。

「…で、その壁に引っ張られたのってさ」 

嬉々としてSの話に乗った俺だったが、既に先程までとはSの表情が一変している。 

こうなってしまっては先の話を聞く事は出来ない。 

だがここまでテンションが上がってしまっている手前、引く訳にも行かない。 

「その『手』だけの『手』ってのはどうなのよ?」 

「ああ、それね…」 

苦笑いしながらSは答えた。 

「あの時は大変だったよ~、でもあんまり聞かない方が良いと思うけど…」 

話す事を迷っている、そんな表情だった。 

その時、部屋の中の空気が異常に張りつめていた気がする。 

Sは一瞬挙動不審者の様に視線をずらしてからこう続けた。 

「あれは、霊とかじゃないから…」 

そしてタオルを片手に、シャワーを浴びにユニットバスへと向かって行ってしまった。 

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