エリちゃんと私

2017.04.04.Tue.16:02

小学校のころ、交通事故で妻を亡くした私の父親は、 

祖母の家に私を預け、そのまま浮気相手と行方をくらましました。 

その時に預けられた祖母の家は都会のはずれにあり、 

もともとど田舎に住んでいたものですから、 

新しく始まるおしゃれな学校生活に、恥ずかしながら、 

胸を躍らせていたものです。 

しかし、その時の私は太っていて、ボサボサの髪、 

ださい服装、どこかあか抜けない雰囲気、 

新しい小学校ではすぐにイジメの的になりました。 

そんな私に唯一優しくしてくれたのが、近所の 

マンションに住む、エリちゃんでした。 

エリちゃんは優しくてかわいくて、そのうえ 

頭もよく運動もできたので周りには友達がたくさん、 

男子にも人気がありました。エリちゃんは私がイジメられていると、 

いつもすっとんで来てくれて、「やめなよ!」とすぐに 

私をかばって、いつも守ってくれました。 

家が近所だったため、よく一緒に帰ったりもしました。 

なぜエリちゃんがこんな私に優しくしてくれるのか、 

いつも不思議に思っていました。

小学5年生になったころに、エリちゃんと私が公園で二人で 

遊んでいると、小汚い中年男性の浮浪者が、ブランコで遊んでいる 

私たちに近づいてきました。もう日も暮れてきていたので、 

私たちは怖くなり、ブランコをこぐのをやめて降りようとしました。 

すると浮浪者はエリちゃんに飛びかかり、茂みに連れて行こうとしました。 

「やめて!助けて!●●ちゃん(私の名前)!!」 

エリちゃんは泣き叫びながら私に助けを求めました。 

私は怖くなって立ちすくみ、できるだけエリちゃんを見ないように 

背を向けて一目散で走って逃げました。 

後ろからはエリちゃんの声が聞こえましたが、口を塞がれたのか、 

しばらくして静かになりました。 

家に帰って、なにが起こったかも当時の私にはよくわからないまま、 

祖母にそのことを必死で話しましたが、私の言っていることが支離滅裂 

だったのか、相手にしてくれませんでした。 

公園に行こうかどうか散々迷いましたが、あの浮浪者のことを考えると 

また恐ろしくなって、そのまま布団をかぶってその夜は 

震えながら寝付けずにいました。

そのまま数週間、エリちゃんは学校を休み、 

一か月くらい経ったころ、エリちゃんは引っ越しました。 

私に会うとあの時のことを思い出してしまうからでしょう。 

先生が転校を告げた日に、大急ぎでエリちゃんの住むマンションに 

向かいましたが、すでにエリちゃんは引っ越した後でした。 

それから中学に進みましたがイジメは続き、 

エリちゃんとあの日のことを忘れられずにいた私は、日に日に 

人間不信になり、最終的に精神科に通う日々が続きました。 

中3の冬、祖母が他界し(祖父は元々他界しています)、 

私は叔母の家に引き取られることになりました。 

叔母の家は他県にあり、もともと不登校だったので、 

私はそのまま引っ越すことになりました。 

高校に行ったら、今度こそ楽しい生活を送りたい。 

なにより、エリちゃんの記憶を、この脳味噌から忘れ去ることが、 

その時の私にとってなによりの願望でした。 

その当時、すっかりやせ細った私は、高校3年生だった明るい 

いとこの手助けもあり、少しあかぬけ、人とのコミニュケーションも 

前ほど苦手ではなくなっていました。 

高校の入学式、さっそく隣の席の子に話しかけられ、 

クラブもバレー部に入り、以前の私とは比べられない位 

明るくなり、エリちゃんのことも徐々に思い出さないようになりました。

そのまま私は大学に進学し、デザイン系の会社に勤めるようになりました。 

だいぶ仕事にも慣れてきたころに、お得意さんのところに届け物をする 

用事がありました。そのお得意さんの住んでいる場所こそが、私が 

昔住んでいた、あの町だったのです。 

駅から地図を持って歩いていると、ああ、この街も変わったなあと 

ひしひし感じていました。都会化が進み、街並みも大きく変わっていました。 

新しい高層マンションの前で足を止めました。ここがお得意さんの住んでいる 

ところでした。ふと、昔の思い出がよぎりました。 

私はそれを無理やりかき消し、エレベーターに乗りました。 

11階くらいだったのですが、在宅でなく、ポストに入れておきました。 

そのままエレベーターに乗って降りようとすると、途中で少女が 

乗ってきました。エレベーターの中には2人きり。 

何か声がすると思ったら、少女が泣いているのです。 

顔を覗き込もうとすると、バチ、と目が合ってしまいました。 

おかしな感覚でした。以前にこの女の子とは会ったことがある。 

でも思い出せない。時間がゆっくり流れていく。 

その間もじっと私を見つめていた少女は、口を開きました。 

「私、エリちゃんのこと忘れない。あなたも、友達を大切にしてね」 

あっけにとられている私を少女は二度と見ることはなく、 

開いたエレベーターの先に駆けていき、角を曲がって消えていきました。 

あれは私だったのでしょうか? 

彼女は小学生のように見えましたが、当時の私はもっと太っていて 

あか抜けない服装だったはず。謎は多いですが… 

確かめる術もありません。 

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