Uの憂鬱

2017.04.06.Thu.16:06

怖いもの知らずの友人Sが、肝試し行こうぜ、と僕を誘った。 

この友人Sというのは、小学校の時から知っているいわゆる幼馴染なのだが、 

あらゆる意味で怖いもの知らずで、クラスに一人はいる「無茶をする奴」だ。 

別々の高校・大学に進学しても、友人Sと僕にはつきあいがあり、週一ぐらいで 

飲んだりつるんだりしている。 

くだんの肝試しには、Sと僕と、もう一人、 

僕のバイト仲間で、フリーターのUも一緒に行くことになった。 

Uと友人Sとの間に面識はなかったのだが、Sの誘いが「今から行こうぜ!」式の 

かなり急なものであったため、「それなら今Uと遊んでるから……」と、 

一緒することになったのだった。 

飲み屋からSの家に行くと、Sの家の前に見慣れぬ車がとまっている。 

どうやら、免許を取って車を買ったので、それを自慢したいがために 

企画した「肝試し」であったらしい。 

Uは無口で愛想がなく、一見ただの暗い人だ。 

しかし実は重度の内気、人見知りなだけで、親しくなるとやや無口気味程度の人だった。 

飲み屋から直行したために、僕もUも少し酔っていた。 

特にUの方はややフラフラするほど酔っていて、飲み屋からSの家までの道中、 

鼻歌まで歌っている始末であったため、大丈夫かコイツと思ったのを覚えている。 

普段無口で暗い反動か、酒が入ると愉快な笑い上戸に変貌するのがUの常だった。

しかし、酒が過ぎたのか、歩いているうちに酔いがさらに回ったのか、 

Sの家につくころには、Uの顔色は、夜目にも紙のように白くなっていた。 

さっきまでの上機嫌はどこへやら、普段以上の無口さになっている。 

いざ車に乗り込むと、Uはぐったりしているばかりで、まったくしゃべらない。 

Uだけ帰した方がいいかと思って尋ねてみるが、返事がはっきりしない。 

車が走り出してしばらくすると、Uは眠りはじめた。 

後部座席で寝ているUの様子を、横目で伺いつつ、僕とSは小声で話をはじめた。 

今から行く肝試しスポットとは、市内どころか県内でも割と有名なスポットで、 

A公園というところだ。 

戦国時代に城があったのだが、今ではそのことを書いた看板が立っているだけの、 

木とか芝生しかない公園である。 

A公園にはお決まりの怪談がいくつかあり、処刑された侍の幽霊が出るとか、 

乳母の霊が出るとか、いろいろ噂されている。 

Sはデジカメ持参で、「絶対に幽霊を撮る」と息巻いていた。 

僕は幽霊とか、そういうものをあまり信じていなかったので、 

「ハイハイ」程度で流した。 

それよりも、免許を取り立てのSの運転がやたらと荒っぽく、 

狭くてくねった道を通っているのにもかかわらず、スピードを出しすぎているのが 

気になっていた。 

「安全運転しよーぜ」と言うと、Sは窓に垂れ下がっている交通安全のお守りを 

得意げに指さし、「大丈夫だって」と言うだけ。 

その時、突然Uが目を醒まして、「車をとめて」と言い出した。 

様子が切羽詰っていたので、吐くんだな、と思った僕とSは、もちろん 

慌てて車を路傍に寄せた。

Uは車がとまるかとまらないかの時には、もうドアを開けて外に飛び出し、 

案の定嘔吐を開始した。 

一通り吐き終わると、Uは「ごめん、もう大丈夫」と言ったが、 

相変わらず具合が悪そうだった。 

Sは「じゃあA公園行こうかー」などとかなり呑気だった。 

僕が再度、「帰った方がいいんじゃね?」とUに尋ねると、彼は頷き、 

「悪いけど、俺だけでいいから、一度送ってくれないかな?」と言った。 

じゃあUを家まで送って、再出発するか、と言うことになった。 

引き返す道すがら、Uは今度は眠らずに、青い顔をしてじっと黙っていた。 

普段はいくら無口と言ってももう少ししゃべるのだが、 

Sが知らない人であること、具合が悪いこともあって、黙っているのだろうと思った。 

Uのアパートに着いた時、「ちょっとなんか飲んでけば?」とUに誘われた。 

具合が悪いんだったら、一人で静かに寝てた方がいいのに、と僕は遠慮しかけたし、 

SはSで、早くA公園に行きたいらしく渋っている。 

が、Uは「寄っていけ」とあくまでしつこく誘う。 

くだんのA公園には車で30分もあれば余裕で着くので、「それなら……」と、 

押される形でUの家に上がることになった。 

Sは強引に誘われたことに不満げで、部屋に入ってもまだぶすっとしている。 

Uはと言えば、突然元気を取り戻したように傍目にも言動が明るい。 

ジュースと酒を用意して、全員席についたところで、Uが真面目な顔をして、 

奇妙なことを言い出した。

「こんなことを言うのはどうかと思うけど、あの車、早く手放した方がいいよ」 

当然、Sも俺も「???」となった。 

ややあって、Sが「なんで?」と言った。 

Uは言うのを少し躊躇ったようだったが、意を決したように、 

「あの車、人を殺してるよ」 

と、とんでもないことを言った。 

Sはぽかんとしていた。 

俺は一瞬なにを言われたかわからず、続いて、「えっ!?」とショックを受けた。 

しかも、Sまでとんでもないことを言い出した。 

「な、なんであの車が中古の事故車両だって知ってんの?」 

その時の僕の驚愕はわかっていただけると思う。正直、 

「おおおおおおおおおおおい!!11!」と言う感じだった。 

Sは知り合いの伝手をたどって、 

新車同然の車をかなり安い値段で手に入れたのだった。 

どうやら前の持ち主が死亡事故を起こしたらしい。 

横断歩道を渡っている子供に突っ込んではねたのだ。 

Sは「安ければいいよ!」と大して気にしなかったらしい。 

それをなぜUが知っているのか、それよりも、そんな車を平気で乗り回し、 

なおかつ、僕とUを乗せたSが恐ろしかったのを覚えている。

Uはいわゆる「見える人」であるらしく、 

Sの家に近づくにつれて嫌な感じがしていたそうだ。 

車を見てヤバイと思ったものの、帰るとは言い出せず、しかも車に乗ったら 

もっと具合が悪くなってくる。 

これはまずいと、引き返させたらしい。 

Sはなぜか感心したようで、すげえなあと感嘆している。こいつの感性はおかしい。 

Sは「車を早いところ手放さないと、ひどい事故を起こすかもしれない」と警告され、 

さすがに車を手放すことを考えたようだった。 

いくら怖いもの知らずとは言え、自分が怪我をする程度ならともかく、 

人身事故でも起こしてはたまらないと思ったのだろう。 

僕はUに、「と言うことは、Uには、車になにかがいるのが見えたのか?」と尋ねた。 

Uは口をつぐんで、「別に」と言ったが、なんだか怪しい感じだったので、 

さらに尋ねると、やっと彼はこう言った。 

「フロントガラスに、血だらけの子供の顔が張り付いて、逆さに覗きこんでたよ」

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