放課後の教室で

2017.04.20.Thu.11:09

中2の文化祭の後、実行委員だった俺は反省会を終え、 

俺が所属していたクラブの部室をちょっと片付けてから、 

もう薄暗くなった廊下を歩いて教室に鞄を取りに戻ろうとしていた。 

こんなに遅くなるなら、鞄持って反省会出ればよかったな、 

と、実はビビり王の俺はすでに後悔していた。 

誰もいなくなった教室が並んだ校舎は静まりかえって、 

さっきまでの文化祭の興奮と喧噪の反作用みたいに、 

夜中でも墓場でもないのに 

「ここで生きて息をしているのは俺だけ」 

みたいな寂しさと不気味さを漂わせていた。 

足音を立てると何か怖いものに気づかれてしまうような、 

そんな妙な気持ちに支配されて 

俺はびくびくと、誰もいない教室が並んだ廊下を歩いた。

教室の前まで来ると、もう皆帰ったろうと思っていたのに、 

まだ女子が三人居残って、 

机一つを囲んで座って何かしているところだった。 

一人はこちら向き、 

あとの二人は机を挟んで向かい合ってこちらには横向きで、 

薄暗い中で皆顔を伏せているので表情はわからない。 

こちらを向いて座っているのは俺がちょっと好きだったK、 

他の二人はKと仲が良いMとYのようだった。 

机の上には紙が置いてあって、三人とも手をその紙の上に置いて、 

一心不乱に何か書くような動きをしている。 

あれって「コッ○リさん」か? 

おいおい、やめてくれよ。よりによってこんなときに。 

夕暮れのこんな時間に、マジでなんか呼んじゃったらどうすんだよ。 

そのころ俺の学校ではコッ○リさんが女子の間で流行っていて、 

お告げが元でケンカが起きたりして問題になっていた。

暗くなりかかった教室で、禁じられたまじないに熱中してる、 

そんな彼女らの様子が怖ろしくて、 

俺は教室に入るのを少しためらった。 

だがいつまでも窓越しに見ているわけにもいかないので、 

俺は、意を決してドアをおそるおそる開けた。 

きいい。 

意外に大きな音がしてしまった。俺はビビりMax。 

俺の後ろでドアがばたん、とまた音を立てて閉まる。 

しかし中の三人は顔も上げない。 

俺が教室二、三歩入ると、 

突然女子三人が糸であやつられたみたいに、 

同時に顔を上げくるりとこちらを向いた。 

目をまん丸に見開いて、口を三日月みたいに両端つり上げて、 

薄闇の中に白目とむき出した歯を白く光らせて、 

「きひひひひひひひひ」と彼女らは基地外みたいに笑った。 

情けないけど腰が抜けそうになりながら教室から飛び出そうとすると、 

いつの間にかドアの外にもう一人、 

知らない女子が同じ笑い顔で立っていた。 

目をまん丸に見開いて、三日月型に口を開いて。 

女の口が大きく開き、俺を指さして何か言い始めた。 

「な△いめぞきけく、そま×かげな、く◇める」 

ここまでは耳に残ったが、後は何と言っていたかわからない。 

俺の自制がふっ飛んだ。 

悲鳴を上げたと思う。

なんとか脇をすり抜け、廊下を走って逃げた。 

もつれる脚で必死に走って校舎を飛び出し、 

そのまま走って学校を脱出した。 

林と畑が続く、家までの人通りのない淋しい道を走り通した。 

よくあんなに走れたもんだと思う。 

すぐ後ろにあの知らない女子がついて来ているような気がして、 

とてもじゃないが立ち止まれなかったのだが。 

恥ずかしいが、家のところまで来て気づいたらちびっていた。 

家に入ると、何事もない日常感が戻ってきた。 

鞄を教室に置いてきてしまったが、 

そのことは母には適当にいいわけしてその夜は寝てしまった。 

神経が焼き切れたみたいに、夢も見なかった。

翌朝は逆に、夢の中で怖いものから隠れているような、 

ふわふわした不安な気分で登校した。 

(こんなことがあっても素直に登校しちゃうところが厨房だよね) 

おそるおそる教室に行くとKが俺のところに来て、 

「昨日私らが残って遊んでたの、黙っててね」と言ってきた。 

コッ○リさんは禁止されていたのだから、 

叱られないように内緒にね、というわけだ。 

あの変な笑いの理由をKに尋ねたかったが、 

「昨日いたのは、お前と他にM、Y、あと一人は誰?」 

「え? 三人だけだけど? 何の話?」 

とKがきょとんと不思議そうに答えた後では何も聞けなかった。 

Kも俺が悲鳴を上げながら逃げたことについて、 

俺に何も聞かなかった。

MもYも、普通のクラスメートに戻っていた。 

あのとき彼女らは自己催眠状態だっただけなのかもしれない。 

しかし外にいた女子は結局誰だかわからなかった。 

文化祭を見に来ていた他校の女子生徒だとすれば何でもないが、 

三人がそんな子知らないというあたりが釈然としない。 

後で考えたことだが、俺があのとき三人を偶然見つけたおかげで、 

あのまじないの「完成」を妨げたのではないか。 

それでKとMとYはこちらに戻って来たのではないか。 

そんな気がした。 

俺の唯一のオカルト的体験と解釈している。 

俺は今でも薄暗いところで女の子が何人か集まっているのを見ると、 

どきりとする。 

そしてそういうときに後ろを振り向くのには、 

少し勇気がいる。 

※俺の住んでいる地域では、「コッ○リさん」と口に出して言ったら 

※取り憑かれるとされているため文中では伏せてます。 

※Kが「遊んでた」としか言わなかったのもそのためです。 

※呼び出すきっかけは文字にすることで、 

※それ以外は禁忌とされていました。 

※他の伏字は、やはり口に出してはいけないような気がするからです。

関連記事
コメント

管理者のみに表示