落書き

2017.04.25.Tue.16:08

ある青年が古本屋で小学校時代に使っていた

歌の本を見つけた。 

懐かしい気分になって思わず購入。

『あの青い空のように』や

『グリーングリーン』といった、

当時好きだった歌の歌詞を見ながら、

家で一曲一曲歌ってみたりした。

当時一番のお気に入りだった

『気球に乗ってどこまでも』の頁を開いた。

右下に余白があり、

そこにいたずら書きがされている。

いかにも小学生が少女漫画を真似て書いたような

ヘタッぴな絵で男の子と女の子が描かれていた。

男の子の方には「さとるくん」と書いてあった。

シャツに「3」と書いてあった。

女の子の方には何も書いていなかった。

男はちょっと笑った。

彼の名前もさとるなのだ。

ほとんど消えてしまっていて読めなかったのだが、

もう一度裏表紙の持ち主の名前を見てみた。

薄れかけた文字だがなんとか

「?木 ?子」

と部分的に見てとれた。

小学生の時にそれと似た名前の女の子は

クラスに2人居た。

一人は高木秀子。

名前は覚えているが、

顔はほとんど思い出せない。

もう一人は仲本順子。

こっちは良く覚えている。

なぜなら、彼の初恋の相手だったからだ。

男は妙にドキドキした。

妄想に近い、ある可能性を思ったからだ。

もちろん古本屋は小学校から程遠い都会にあるし、

歌本は恐らく日本中に出回っているものなので、

ほとんど有り得ないことではある。

しかし、あの仲本順子が

自分のことを思って絵に描き、

音楽の授業中にいつも見ていたとしたら…。

なんだか甘酸っぱい気分になりながら、

次のページを開いた。

次のページは『大きなのっぽの古時計』だった。

その余白にも男の子と女の子の絵があった。

テーブルで一緒に御飯を食べている絵だ。

テーブルの上には、

ごはんと味噌汁と魚が描かれている。

次のページは『翼をください』。

男の子と女の子、そして赤ん坊が描かれていた。

どうやらこの持ち主は結婚を夢見ていたらしい。

次頁は『この道』

やはり男の子と女の子の絵が描いてあるのだが、

女の子の顔がぐちゃぐちゃに塗りつぶされていた。

クラスメートにいたずらされたのか、

それとも自分でやったのだろうか?

次頁は『早春賦』

男の子は描かれておらず、

女の子が泣いていた。

テーブルの上に芋虫のようなものが描かれている。

一体、何が起こったのだろう?

想像が膨らむ。

次頁は『あの素晴らしい愛をもう一度』

悪趣味にも、葬式の祭壇のようなものが

描かれていた。

もう男の子も女の子も居なかった。

歌本のいたずら書きはそこで終わっていた。

まさかとは思いながらも、

男は卒業アルバムを引っ張り出してみた。

仲本順子。

久々に写真でみてもいまだに胸がときめく。

初恋だからしょうがない。

やっぱり可愛い。

高木秀子も探してみた。

が、見当たらなかった。

5年のときにクラスが変わっていたはずだが、

他のクラスにも写っていなかったし、

名簿にも無かった。

無性に気になった彼は、

当時PTA役員をやっていた母親に

高木秀子を覚えているかどうか聞いてみた。

「覚えてるよ。でもほら、あの子亡くなったでしょう。

5年生のときに事故で。」

すっかり忘れていた。

そういえば女の子が亡くなって、

ちょっと騒ぎになったことがあった。

あれが高木だったのだ。

男の母親は続ける。

「でもあれね、ホントは自殺だったらしいわよ。

警察の方で事故扱いにしてくれたんだって。

可哀そうにね・・」

それは初耳だった。

嫌な予感が急に現実味を帯びてきた。

男は居ても立っても居られず、

当時のクラスメイトの岡村に電話をした。

岡村も自殺の噂は知っていた。

当時の話をあれこれしている内に、

岡村がこんな話をした。

「そういえばお前、

長島監督のファンだったよな。

いつもジャイアンツのTシャツ着ててさ。」

言われて思い出した。

彼自身は全く興味がなかったのだが、

巨人ファンの父親が買ってくる

背番号3のTシャツをよく着ていたのだ。

(そうするとやはりあの男の子は僕で、女の子は…。)

いや、まさか。

男は急に怖くなり、

手にしていた歌本を放り出した。

岡村は続けた。

「俺たち・・あの子に悪いことしたよな。

よくいじめてたじゃん。

顔に習字の墨汁ぶちまけたりしたっけ。

お前なんか、給食の中に毛虫いれたりしてさ。

覚えてるだろ?」

その瞬間、男の脳裏に自分が幼い頃にした

悪事の数々が一気に頭によみがえった。

胸が締め付けられるようにきりきり痛んだ。

そして同時に、この歌本が間違いなく

彼女のものだと確信したのだ… 

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