呪いの連鎖

2017.05.05.Fri.11:10

呪いって信じる? 

俺は心霊現象とかの類は、まったく気にとめる人間じゃない。 だから、呪いなんか端から信じていない。 呪いが存在するなら、俺自身この世にはもう居ないはずだから。 

自分自身で書くのも嫌になるが、今までもの凄い数の人たちを傷つけてきた。 さすがに人を殺すような事はしてこなかったが、何人もの女の人生を台無しにしてきた。 

ヘルス嬢になった奴。ソープ嬢になった奴。そしてAV嬢。 こんな俺だから、もし呪いが存在するなら、俺は生きていないはず。 

そんなくだらない俺にでも、心から信頼出来る友達がいた。 今から書く話はそいつの話。本当に長くなるから、うざかったらアボンしてくれ。 

今から1年半程まえに、俺は友達に呼び出された。 その時はお互い仕事が忙しく、会うのは約3ヶ月ぶり位だったと思う。 呼び出された場所に向かうと、俺よりも早く友達のAがいた。 

「おー早いじゃん」 俺はそう言ってAに話しかけた。 笑いながらAは、「たまには早くくるさ」 そう言い終わると、Aの顔から笑みが消えていった。 

いつもなら飲みに行って話をするのだが、何となくその日はそんな雰囲気ではなかった。 笑みが消えた後のAの顔が、それを物語っていた。 

「どうしても聞いて欲しいことがあるから、家に来てくれないか」 Aの顔に全く余裕が感じられない・・・。 「何かあったのか?」 俺の問いにAは、「家で話すわ」 そう言い終わると、足早にその場を離れた。 

Aの自宅に着き、Aは話し始めた。 「兄貴が仕事中に死んだ」 そう聞いた俺は、「えっ兄貴は2年前に死んだんじゃなかったの?」。思わず聞き返した。 

「2年前に死んだのは長男。今回死んだのは次男なんだ」 思わず言葉が出てこなかった。 

仕事中の事故死らしい。Aの次男が勤めていたのは、ある大手タイヤ工場だった。 その工場で、主に工作機械のメンテナンスをする仕事をしていたそうだ。 

作業後のメンテナンスのために整備していた所、大型の工作機械が突然作動し、 その機械に頭部を挟まれAの次男は亡くなった。即死だったそうだ。 それを聞かされて俺は、Aに対して余計に何も言えなくなった。 

「2年前に、上の兄貴が事故で死んだときもおかしかったんだ」 長男の事故の話だった。 

Aの長男は家族3人で、移動中に大型トラックに正面衝突を起こしていたのだ。 「あの時も即死だった。3人ともな」 Aの顔は、何かに怒っているように見えた。 

その事故は、片側2車線の道路で起こった。現場検証では、Aの兄が反対車線に入り走行した事が原因とされていた。 

トラックの運転手の話では、よける間も無いくらいの出来事だったらしい。 Aの言う妙な事とは、突然車線を変えたのもそうだし、 ブレーキペダルとフロアの間に、猫が入り込んでいた事だそうだ。 

当然その猫も生きてはいなかった。 

「ぶつかる寸前にブレーキをかけたんだろうけど、間に猫がいて効きが悪かったのかもしれない。 効いてても回避する事は出来なかったんだろうけどさ」 

「猫なんか飼ってなかったのに」 

それを聞いて俺は、「途中で拾ったのかもしれない」 そうAに言うと、「それは絶対にない。猫嫌いだもん」 

しばらくAは黙っていた。 俺は少しで気をまぎらわしてやろうと思い、買い物に行きビールなどを調達してきた。 買い物から戻りAにビールを渡し、話の続きを聞いた。 

「俺これで天涯孤独になっちゃった」 

Aはそう呟いた。 Aの母親は幼稚園の頃に亡くなり、父親は4年前に亡くなっていた。 

もう家族で残されたのはA一人だった。 Aの表情はとても寂しげに映った。 その表情が突然変わり、Aは俺に聞いてきた。 

「なー呪いって信じる?」 思わず呆気にとられてしまった。 「たまにテレビでやってる、木とかにこんこん釘打ったりするやつ?」 

俺はあり得ないという表情で答えてやった。俺のそんな答えに動ずることなくAは喋り始めた。 

「兄貴2人。そして父親も、呪いで死んだのかもしれない」 そこからその話は始まった。 

Aは幼少の頃の話を聞かせてくれた。 そこは普通の田舎町で、これから話す、不可思議な事件が起こりそうな場所では無かったらしい。 

Aの実家の近くには、子供心に相手にしたくない家があったそうだ。 ただ単純に、その家のおばさんの見てくれがもの凄く怖かった、というのが理由だそうだ。

野球をしているときに、たまたまボールがその家の庭先に入ってしまい、 しかたなく挨拶をしてボールを取ろうとしたときに、 そのおばさんに鎌を持って怒鳴られたそうだ。 そんなこともあり、その家は子供にとっては恐怖の対象でしかなかった。 

小学2年の頃、夜中に我慢が出来なくなりトイレに起きた時の話では、 ザク、ザクと物音が聞こえてきて、トイレの小さな窓から覗くと、そこには鎌を庭にある大きな木に向かって、何度も突き立てるおばさんの姿があった。 

とにかく、その光景があまりにも怖すぎて、その晩は寝ることも出来なかったらしい。 翌日、学校に向かう途中で恐る恐るその木を確認すると、確かに無数の傷と大きな釘が1本刺さっていたそうだ。 

子供の頃は、ただ単純に怖かっただけなんだけど、今思えばあのおばさんには同情するところはかなりある。 

その家の主人はもの凄い酒乱で、毎晩のように飲んでは暴れていた。 あの当時は精神的にかなり参っていたんだろう。 Aはそう言いながら話を続けた。 

それから数ヶ月が過ぎ、最初の事件が起こった。 下校途中にAと3人の子供達が、あの家の大きな木の下に、人が倒れているのを発見した。 

4人で最初は寝てるのかとも思ったらしい。それでも気になって、他の子が親を呼んで確認させたところ、すぐに救急車が呼ばれた。 

倒れていたのは、その家の主人だったそうだ。すでに息はなく、死因は心臓発作との事だった。 近所の人の知らせで、農作業に出かけていたおばさんも呼び出され、すぐに病院に向かっていった。 

子供だったAは震えていたそうだ。 死体を見た恐怖と、あの晩のおばさんの奇妙な行動が重なって、余計に怖かったらしい。 

それから、おばさんは人が変わったように明るくなっていた。前とは比べられない程に。 でも、おばさんの笑顔は長くは続かなかった。 

その家には2人の息子がいたが、2人ともその家にはいなかった。 次男は人柄もよく真面目で、結婚をして家を構えていたのだが、 長男は父親に似て酒乱がたたり、定職にもつけなかった。 

父親が死に、母親の面倒を見るという名目で、長男は家に戻ってきた。 おばさんにとっては、今まで以上に辛い日々になっていったのだそうだ。 

昼間から酒を飲んでは母親に暴力を振るい、近所から何度注意されても直る事は無かった。母親に対する暴力に、次男も何度も抗議に来ていたようだ。 

数日が過ぎた晩、Aは家族で食事をしていた。 

すると玄関を激しく叩き、父親を呼ぶ声がする。声の主は、隣に住むお姉さんだった。

「向こうの木の下に人が倒れている」 そう言ってお姉さんが震えていた。 すぐに父親が確認に向かった。 

そして確認して戻ると救急車を呼び、子供達に一歩も家を出るなと言い残して、また出ていった。 

しばらくして救急車がきて、騒ぎは大きくなり始めた。 窓越しに確認すると、今度はパトカーまで来ていたそうだ。 その騒ぎは一晩中続いた。 

翌日の朝、殺人事件が起こったことを知った。

殺されたのは、あの家の長男だった。鍬で頭部をめった打ちにしての殺害だった。 めった打ちにした場所は家の裏だったらしいが、 最後の力を振り絞って、人の目に触れるあの大きな木の下までたどり着いて、そこで息絶えたらしい。 

家にいたおばさんが自分がやったと証言したため、おばさんは警察に連れて行かれたが、 翌日の昼間に次男が出頭してきて、おばさんは家に帰された。 地元の新聞では大きく報道されたそうだ。 

次男の判決はさほど重くはならなかった。 動機が母親を助けるためだったのと、周りの証言や、もしかしたら嘆願書も出ててたかもしれないらしく、 刑は思いのほか軽くすんだそうだ。 

次男の刑が確定したその日、おばさんは家の木で首を吊って自殺した。 Aは学校にいたため、事件が起こったことは、家に帰るまで知らなかったらしい。 

その家では、2年ほどの間に3人も人が死んでしまった。 あの事件が起こった後は、その家には誰もいないはずなのに、 それ以来その家の前を通るのを止めて、大回りして家に帰るのを選んだそうだ。 自宅の玄関からも見える家なのに。 

事件から5年くらいが過ぎた頃、あの家の次男は刑期を終えて戻ってきた。 近所の家を謝罪してまわり、礼を言いながらまわっていた。 

Aの家にも訪ねきた。父親が対応して、「苦しかったね。これから頑張るんだよ」。そう声をかけていた。 

元からの次男の性格を知る近所の人達は優しかった。 次男も一生懸命に働き、以前の暮らしを取り戻そうとしていた。 

次男の妻も真面目で、主人が逮捕された後も別れることなく、帰って来る日を待ちながら家を守り続けていた。 

2年後、そんな2人に子供が出来た。 近所の人たちはみんな喜んでいた。生まれてくるまでは。 産まれてきたのは男の子だった。でもその子は心臓に障害を持っていた。

それから次男は、その子の手術のために、今まで以上に働いた。子供を助けるために。 それでも間に合わなかった。 男の子は生後半年で、この世を去ってしまった。 

それから2ヶ月後、奥さんは焼身自殺をしてしまった。 後を追うように、次男はあの木で首吊り自殺をした。 近所中に重い空気が流れて、やがてよくない噂が流れ始めた。

あの木があると、これからも良くないことが起こるのではないか。木を切り倒したほうがいいのでは。 みんなが口々に、木のせいにし始めていた。 それでも、誰も木を切ろうとはしなかった。 

しばらくして、自殺したおばさんの遠縁にあたるという男2人がやってきて、 「自分たちがこの木を処分します」と言ってきてくれた。 

念のためにと2人はお払いをしてもらい、それからチェーンソーを使ってあっさりと切り倒してくれた。 

かなり大きな木だったこともあり、倒した後に細かくするのに時間がかかってしまい、 根の部分は後日にするということだった。 それから数日が経っても、根が掘り返されることは無かった。 

木を切り倒した人の一人は、酒に酔い3メートル程の側溝に頭から落ちてしまい、脳挫傷で死亡。 

もう一人は、噂では農作業中にトラクターが横転し、下敷きになり死亡したと聞いたそうだ。 

Aが高校を卒業して町を離れる頃にも、まだその根は残っていたそうだ。 

俺とAが出会ったのは、同じ専門学校でのことだった。Aとはそれ以来の付き合いになる。Aは俺とは違い、頭も良く性格も良かった。 

そんな奴だから、就職にも困ることはなかった。俺と違い、Aはすぐに就職した。 Aが就職してからも、俺たちの付き合いは続いた。会うたびに女のことで説教をされていた事を、今でも思い出す。 

就職して3年ほど経過した頃だろうか。それはあまりにも突然だった。 Aの父親が心臓発作で他界した。

Aが言うには、病気など患った事など無かったから、もの凄くショックを受けたらしい。 Aが実家に大急ぎで帰ったとき、すでに二人の兄が帰って来ており、通夜の準備に追われていたそうだ。 

それから数日が経ち、葬儀も終え、3人は久しぶりに実家で酒を飲んだそうだ。 その時に長男が、二人の弟に語りかけた。 

「二人ともあの家の木を見たか?」 

そう言われてAは、次男と顔を見合わせて「何のこと?」。長男に聞き返した。 「根っこだけ残ってた木のことだよ」 

そう言われて二人は、あの木のことかと思い出したらしい。 長男は続けた。 

「もう更地になってるんだよ。そして、あの木の根を掘り出したのが親父なんだ」 

それを聞いて、Aの中で眠る忌まわしい記憶が蘇ってきた。 次男はいきなり、怒気を強めて長男に食ってかかった。 

「ふざけるな。じゃあ親父は、あの木に祟られて死んだっていうのかよ。 ただ掘り返しただけで祟られるのか。馬鹿げてるぞそんなもん」 

しばらくみんな黙っていた。 

Aは疑問に思ったことを口にした。 

「何で親父は木の根を掘り返したんだろ。兄貴は何か聞いてない?」 

その問いに対して、二人の兄は首を振るばかりだった。 長男は首を振りながら、 

「掘り返した理由は俺にもわからん。だけど掘り返した後、親父は突然死んだ。 どうしても俺には、偶然には思えないんだ」 

次男は、「兄貴やめてくれないか」。そう言って話を遮ろうとしたが、それでも長男は話を続けた。 

「昨日さ、夢に親父が出てきたんだ。 俺を見ながら、何度もすまないすまないって言うんだよ」 

それを聞いた次男は、「何で兄貴の所だけに出て、俺たちの所には出ないんだよ」。 Aを見ながらそう語りかけた。 

その問いに対して長男から出た言葉に、二人とも驚いたらしい。 「次は俺なんじゃねーの。だから親父は、俺に謝りに来たんだろ」 

二人はそれを聞いて押し黙った。 その日はそれ以上、そのことを3人とも語ろうとはしなかった。 

その後、長男の言った一言によって、3人は今まで以上に連絡を取り合うようになったそうだ。

父親の死後1年9ヶ月経った頃、突然長男と連絡が取れなくなった。 次男からもその連絡が来た。家に電話をしても、嫁さんすら出ないとの事だった。 

次男は不審に思い、長男の勤める会社に電話したそうだ。 会社から返ってきた言葉は意外だった。1ヶ月ほど前に突然退社したと聞かされた。 

二人はすぐに長男の自宅に向かった。 何度呼び鈴を鳴らしても、誰も出てくることはなかった。 不審に思ったのか隣の住人が出てきて、話を聞いてくれた。 

すると隣の人は笑いながら、「3人で旅行に出かけるって言ってましたよ」。そう教えてくれた。 二人にはどうしても納得がいかなかったらしい。 何で俺たちに何も告げずに出かけるんだ?あれだけ密に連絡を取り合ってたのに。 

それからすぐに二人は、行きそうな場所として実家に向かった。 主の居なくなった家にたどり着いたが、そこにも3人の姿は無かった。 

それから2日後、二人の元に警察から連絡が来た。 長男一家が事故死したと言う知らせだった。 事故の原因は、先に書いた通り不可思議なものだった。 葬儀が終わっても二人は押し黙っていた。 

しばらくして二人は、長男一家の家の整理に追われた。 家の片付けをしている時に、Aは長男が残したであろうメモ帳を見つけた。 

そこには奇妙なことが書いてあったらしい。 

『俺が何をした』 

その言葉が、何ページにもわたって書き綴られていたそうだ。 

最後のページには、 

『俺と○○そして○○これで3人だ。もう終わりにしてくれ。』 

次男とAの名前が書かれていた。 

それが最後のメモだった。 

次男にそれを渡し、Aは押し黙った。 それを見た次男は、「兄貴は神経質すぎたのかもしれない」。 そう言い終えて、次男も黙りこくってしまった。 

Aは心底おびえたそうだ。 馬鹿にする次男を無理にさそい、祈祷師やらその手の除霊専門の所を、何カ所も回ったらしい。 

細かく書けば、本当に凄い量になってしまう。だからかなりはしょってるから、勘弁して欲しい。 

長男が亡くなって2年経ち、次男が事故死した。 そしてその話を俺は聞かされた。 呪いと言われても、俺にはどうしてもピンとこなかった。 

その話を聞いた後、俺はAに話し出した。 

「なあA。もしさ、呪いが存在していたら、俺は絶対に祟られてるよ。 お前も知ってるよな。俺が今まで、色んな女にしてきた仕打ち。

お前が知らない話だってある。それこそ、いつ夜道で刺されてもおかしくないくらいだ。 刺されないにしても、相当恨まれている事は確かだと思う。 現実に呪いが存在するんなら、俺はもう死んでるはず」 

でも俺がどんなに語ろうが、Aの周りでは不可解な事が起きているのは事実。 俺自身が一つずつあれやこれや説明しても、納得するわけもなく、話は平行線を辿るだけだった。 

Aは俺と話した後に、すぐに所持していた車を処分した。 「車で事故なんて嫌だし」 Aは苦笑いしながらそう言っていた。 

それからしばらく、何事もなく過ぎていった。その間も、俺とAはちょくちょく会っていた。会って食事したり飲みに行ったりしてた。 

しばらく会ってないなと気になりだしたときに、Aから連絡がきた。 

『病院にいて暇だから、見舞いにでも来てくれよ。話もあるし』 

それを聞いて俺はすぐに病院に向かった。

病室に入りAの姿を見たときは、もの凄くショックだった。 別人かと思うほどやせ細ったAがそこにいた。 

動揺してることを悟られたくなかった俺は、「個室なんてえらい豪勢だな」と笑って語りかけた。 するとAは、「俺これでも結構金持ってるんだよ」。笑いながら答えてくれた。 

俺は病気のことは全く無知だからよく知らないが、進行の早い癌だと説明された。 余命3ヶ月。あまりにも突然の宣告だった。 

Aは話を続けた。「呪いだよ」。そう言い放った。 俺はすぐさま「あるわけ無い」と食ってかかった。 

Aも言い返す。 

「じゃあ偶然にも俺たち家族は、こんなにも短期間の間に全員が死ぬのか!」 Aの目は怒りに満ちていたと思う。 

話すうちに冷静になったAは、「お前に頼みがあるんだ」。 「俺は出来ることは何でもしてやるから」そう言った。 今になれば、その言葉は言うべきでは無かったと後悔している。 

Aの頼みとは、彼女の事だった。 Aは学生の頃から、Bという女と付き合っていた。 Aの彼女だから、俺もよく知っている間柄だった。 

本当に良い子なんだ。Aにはお似合いの彼女だった。 「Bの事なんだけどさ。お前、あいつを口説いてくれね」 

それを聞かされた瞬間、俺は呆気に取られた。Aが言うには、病気のことを彼女に話した所、「今すぐに結婚するんだ」って言われたらしい。 

呪いのことは、気が引けるらしく言えなかったそうだ。 まー言ったところで、聞く耳もつ女では無いと思うが。 

俺は呆気に取られながらも言い返した。 「俺にも好みはあるんだよ。自己主張のきつい女には興味はない」 

それでもAは、「お前以外にそんなこと頼める奴いないんだよ」。 「そりゃそんなアホなこと頼めるのは俺ぐらいだろうけどさ、それは無理な話だ。 俺が俺のままの性格でBの立場でも、別れ無いと思うぞ」 

そう言ってたしなめた。 

「もしBが俺と結婚したら、どうなると思う?」 

Aはそう俺に問いかけた。 

「辛いかもしれないけど、本人が望むことなんだから仕方ないだろう」 

そう答えるしかなかった。 

「結婚して呪いがそのままBにかかったら、俺は死んでも死にきれない」 

Aの言葉は切迫していた。 

納得いくわけはない。 

それでもAが呪いに拘るのであれば、Bと話してみようと俺は思った。 俺自身は呪いは否定している。それでも、これだけ続くと正直怖い。 

俺が別れさせ無かったことが原因で、Bの身に何か起こったら。 そう考えると、たまらない気持ちになった。 

俺はそれからすぐに、Bに連絡を取った。強引に時間を作らせ、会う予定を入れさせた。 久しぶりに会うBの顔は、見るからに疲れていた。お互い笑顔など無かった。 

「Aの事なんだけどさ」 

そう切り出した。 Bは俺の話を遮るように、「別れる気はないから」。 

その言葉に、俺は次の言葉を見失った。 それでも何とか平静を装いながら、「いきなりそれかよ」。そう言ってBの顔を見た。 

Bの目は真っ赤だった。 Bにしてみれば、俺が何の話をしに来たのか、大体は想像ついていたんだろう。 Aの代弁を頼まれて来たのだろう事を。 しばらく二人は黙っていた。

「別れることはもう出来ないよ」 

いきなりBが切り出した。 

「そりゃそれだけ長く付き合ってたんだから、仕方ないさ」 

俺はそう返した。 

「そんなんじゃないよ」 

Bは続けた。 

「子供が出来たんだ。あの人の分身が、この中にいるの」 

そう言ってBはお腹をさすった。 

俺はその言葉を聞いて、頭の中が真っ白になった。 

さらにBは、 

「子供が出来たことを彼に伝えれば、もしかしたら病気も治るかもしれない」 

涙を流しならBは言った。 

その言葉を聞いて、俺は我に返ったのだと思う。 

「今のあいつには絶対に教えるな」 

その言葉にBは切れてしまった。 

店の中だと言うことも忘れて、二人で言い争った。程なく店員に注意された。 

それでも口論が収まることはなく、結局話は平行線のまま、店を追い出されてしまった。 店を出て歩きながら、俺はBを説得する方法を考えていた。 

歩きながらBに聞いてみた。 

「そもそも何年間付き合ってきたんだよ」 

「これだけ長く付き合ってきたのに何で今、妊娠するの?」 

「避妊はしてたんだろ」 

俺自身が疑問に思ったことだった。 さらに、聞きづらい事だとは思ったが、俺は続けた。 

「出来たのがわかったって事は、あいつが入院する前にやったって事だよな」 

本当にひどい聞き方だ。 

Bは答えてくれた。 

「今まではちゃんと避妊してたよ」 

Bは続けた。Bの話を聞いていくと、俺は寒気を覚えた。 

4ヶ月くらい前に、変な夢を見たんだそうだ。3日間、夢は続いた。 最初に見た夢は、会った事もない男性で、何度も同じように「すまない、すまない」と言い続けていたらしい。 

会ったことのない人なんだけど、何となくAに似ていたそうだ。 次に見た夢は、亡くなる前に紹介されていた次男だった。 

同じように「ごめんね」と何度も言われた。そして最後に見た夢は、A本人だった。 何度も振り返りながら、手を振っていたそうだ。 

その夢を見て嫌な予感がしたらしく、結婚を急がなければと感じたらしい。 以前から、結婚の話になるとAは消極的だったらしく、いきなり結婚話をしても変わらないだろうと思い、それなら妊娠してしまおうと考えたそうだ。 

でも、妊娠したのがわかる前にAは入院してしまった。 Bはこうも言っていた。 

「あの夢は、この事を伝えたかったんだと思う。 だから、子供が出来たことを知れば、必ず直ってくれるよ」 

頭がおかしくなりそうだった。 

「今日はもう遅いから明日また話そう」と、Bを家に帰した。 

その日は一晩中、寝ることは出来なかった。何が最良なんだろう。 自問自答を繰り返して出た答えは、Bに呪いの話を告げることだった。 

翌日は、Bを俺の家に呼んで話すことにした。こんな話は外では出来るわけもない。体のことも心配だったし。 

Bと話をし、すべてを教えてあげた。 何人もの人が死に、そしてAの家族が亡くなり続けていることも。 夢の話や、細かい事もすべて話した。 

Bはため息を付きながら、「言えないよね、呪いなんて」。そう言った。 「それが結婚に踏み切れない理由だったんだね」 

Bは泣いていた。 

俺はBに言った。 

「あいつが呪いを信じてる以上、妊娠のことがわかれば、100%堕ろせと言ってくるだろう。もしBが生む覚悟なら、絶対に言うな」 

Bは、「あの人の性格を考えれば言えないよね。でも堕ろさないよ」 涙をこらえながら言うBを見て、俺は泣けてきた。 

その後に俺たち二人は、これからのことを話し合った。 人の人生をこれだけ真剣に考えたのは、俺自身初めてのことだったかもしれない。Aの病が奇跡的に治ってくれれば、どれだけいいだろう。 

それから俺は、暇があればAの元に見舞いに行き、Bともよく話をした。 Aの病状は一向に良くはならなかった。 2ヶ月も経たないうちにAは危篤状態に陥った。 

持ち直すことなくAは他界してしまった。 俺が駆けつけた時には、すでにAの体からは温もりは消えていた。

Aは、自分が亡くなった後のことをよく考えていてくれた。 Bに保険のことや遺産のこと、俺とBに葬儀のお願いや後の処分方法など。 

Bに宛てた手紙。俺とBに宛てた手紙。そして俺に宛てた手紙。 俺とBに宛てた手紙には、もの凄く感謝の込められたものだった。 Bに宛てた手紙も、同じようなものだったらしい。 

ただ、俺個人に宛てた手紙は違っていた。 その手紙の内容は、Bに見せられるようなものではなかった。 

Aが亡くなって半年ほど経った。もうすぐBは出産する。 無事に生まれてきてほしい。何事も無く成長してほしい。 

ひたすらそう願うしかない。 俺は、Aの残した遺言で今も悩んでいる。なんでこんな物を残したんだ。 Aの残した手紙の中には、俺とBの婚姻届が同封されていた。 そしてAの残した手紙。 

『Bのお腹に居る子供は俺の子供ではない。お前の子供だ。だからお前は、責任を取ってBを幸せにしろ。』 

Aは、子供が出来ていたことに気づいていたのだ。 だからって強引に俺の子供にするなよ。お前なりに考えたことだろう。 

きっと、呪いの事で頭がいっぱいになっていたんんだろう。 お前の気持ちは良くわかる。でもこれはないだろ。 

最後にAはこう綴っていた。 

『頼むからBを幸せにしてくれ。頼むからこの願いを叶えてくれ。もし叶えてくれなければお前を呪う。』 

Aの身の回りで起きたことは、偶然だと俺は思いたい。 Aが呪われる必要は、何一つ無かったはずなんだから。 

もしかしたら、これは俺自身が招いたのかもしれない。 今までしてきたことの罰なのかな。

関連記事
コメント

管理者のみに表示
« 3文字 | HOME | 生霊 »