呪いの絵

2017.05.13.Sat.11:15

俺の家には嫌な絵がある。 

いわゆる掛け軸で、作者不明で描かれているのはショウキだった。

俺の家にあるというのはちょっと大げさで今は地元の神社にある。

この絵は俺の親父が子供の頃に俺の祖父が知り合いからもらってきたものである。

もらったいきさつは祖父の知り合いが亡くなって、その奥さんからぜひもらってほしいと言われたといったものだ。

しかし、生前故人とさして親交が深かった訳ではない祖父が貰い手になったのは実は厄介払いの為だった。

というのもその絵の持ち主は必ずごく自然な形で死ぬ(心臓発作とか)からだ。

ちなみに故人もどこからか譲り受けたのだが、その前の持ち主もやはり若くして亡くなっている。

その前も多分そうなのだろう。

曰く付きの絵、ということだが祖父は大変気に入っていたという。

手放すきっかけとなったのは、俺の親父がかわいがっていた鳩が1羽残らず突然に死んだからだ。

さすがの祖父もこれには気味悪がったらしく地元の神社に納めたのだった。

ところで、その神社は地元では有名でだいぶ前に二回ほどテレビの取材がきたことがある。

そこの神主さんは俺の七五三のときにはだいぶ年を取っていて、読み上げる祝詞なんかはカセットテープみたいだった。

町の歴史に強く、相談事には親身にのる神主さんだったが、祖父のこの絵の件に関しては固く拒んだらしい。

祖父は祖父でこんな絵を持っているのは嫌だったので、本気で土下座してようやく預かってもらえることになったそうだ。

ここで、その絵と俺の家との関わりはいったん途切れる。

関わりが復活したのは俺が小学校5年の頃だ。

当時の俺は始終狐に憑かれたような悪ガキだった。

神社でよく仲間と木登りをしていたのだがある日、神主さんに捕まって社務所の奥の座敷に連れて行かれた。

聞かされるは優等生だった俺の親父の話で、いかに俺がバカかを諭す内容だったのだが思い出したように神主さんは例の絵の話を始めた。

俺は聞かされたこともない話に夢中でその絵を見せてくれと頼み込んだ。

神主さんは渋々見せてくれたがその絵のすばらしさは本当に国宝級だと子供心に思った。

そして、神主さんが話した話は何となく言いにくくて親類の誰にも話せなかった。

以下神主さんの言だが言っていた内容を書いてみたい。

「異常に無駄な空白部分に薄く雲の絵が書いてあるのが見えるだろうが、一見するとただのシミだ。昔はたいそうな絵であったに違いがない。

ただ絵の具の代わりに使ったものが問題だ。多分何かの血だろう。

絵の具の部分だけうまく残ってショウキの絵にはなっているが本当は多分違う。

凝縮された地獄だ。この世の果てだ。この絵そのものが呪詛だ。

この絵には対になる絵があと六枚はあるはずだが残りの絵も同じだ。

私は見たことはない。

死んだ祖父が子供の頃語ってくれたものとよく似てるんだ。

引き受けたくなかったんだよ。

清めた縄が半年もしないうちに腐って土になるような絵なんか。

描いた人の落款がないのも当たり前だ。

呪う奴がわざわざ自分の名前を残すなんて聞いたこともない。

箱だけが新しいが元の箱は必ず何か言葉が描いてあったはずだ。

古い忌まわしい言葉が。その箱さえあれば絵の真相を知ることができたろうに。」

最後に二つシメとして書きたいエピソードがある。

祖父が死ぬまえ、病床で俺は祖父と二人きりになったことがある。

祖父は痛み止めの注射でうわごとしか言わなかったが少しだけ目が覚めて、大学生だった俺に言った言葉がある。

「言葉は人間が作り出した一番古い意思の伝達の方法だ。

人を怒らせるのも悲しませるのも笑わせるのも喜ばせるのも言葉があるからできる。

言葉は人の気持ちを動かせることができるんだ。

だからお前は人の気持ちを考えて、よくよく考えてから物事を言いなさい。

いいか、言葉は人に聞かせるものだとは限らない。神様にも通じるんだ。

祝詞はそうだろう?

古い言葉で意味はわからないだろうがあれは神様とお話しする為の言葉だ。

同じように呪いの言葉だってある。秘密にしすぎて忘れただけなんだな。

あと言葉には力があるが、念を込めて人が作ったものほど怖いものはないんだ。

何かの目的の為に人が一心不乱に作り上げた何かが場合によっては一番怖いんだ。」

それを俺に語った祖父は話し疲れて寝てしまった。

もう一つ、あの絵のことだが、雲に見えていたのは雲ではないとあるとき気がついた。

雲のように見せて描いた地獄絵だと。

完璧な状態のその絵は人の心をつかんだのだろう。

よく見ればそれは地獄絵なのに。確証はないが多分そうだと思う。

祖父も死に際の意識が混濁しているときにあの絵の世界を見ているような節があったからだ。

「骨が丸い。」そんな言葉をつぶやいていた祖父が少し怖かった。

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