深夜のガードマン

2017.05.25.Thu.21:15

二年前の話です。

私はスーパーのレジを担当していて、レジ長を任されていました。

翌月に新しい店舗がS市の町に出来るという事で、研修生を指導する為、毎日その町に通う事になりました。

丁度その頃、通勤する道路では道幅を広げる為に工事をしていて、深夜になると迂回をしなければいけませんでした。

その道以外にも道はありましたが、山道の為かなり時間がかかります。

工事が無かったとしても、町まで1時間。

しかも出勤時間が毎朝早い。

山道を使うとしたら、もっと早く起きなければいけないので、できれば今以上の早起きはしたくないと思い、そういった理由で利用しませんでした。

何時ものように仕事を終え、本当なら18時には帰る支度をしていたのですが、その日は研修生達の研修レポートや実地をした感想などを報告、チェックした為、帰る頃には21時を回っていました。

くたくたになって、明日も早いと思うと、早く帰りたい気持ちが大きくなり、何時もよりスピードを上げて帰路につきました。

そして例の工事道路に入った時、既に迂回の看板が出ていて、まだ深夜でもないのに面倒だなと思いながら、ガードマンに従い、前車について行きました。

進んでいくうちに車は次第にいなくなり、気付けば迂回路を走っているのは私だけでした。

時刻は22時を回ろうとしていて、沈んだ気持ちを晴らすようにスピードを上げようとした時、前方に赤く光るものが見えました。

ガードマンの誘導棒でした。

誘導棒を振り、横道に入れという指示を出していました。

見馴れた土地に入っていたので、こんな横道に入ったらもっと帰りが遅くなってしまうと思い、ガードマンが見えなくなってからすぐにスピードを上げました。

それから数分、また誘導棒が見えました。

今度は舗装されてない道に誘導され、砂利道に通されました。

正直、何でこんな道を…と思いましたが、誘導されたからには仕方ないと思い、ガタガタと揺れる道をしばらく走りました。

するとまた、ゆらゆらと揺れる誘導棒が見えました。

こんな月明かりも届かないようなところで大変だなとぼんやり考えながら、また指示を仰ごうと見たところ、今度は砂利どころか、獣道に誘導されたのです。

さすがにこんな道は知らないし、ちゃんと知ってる道に出れるのだろうかと心配になりました。

ですが、ガードマンは進むようにと誘導棒を動かし続けます。

こんなことなら、時間がかかっても山道を選べば良かったと後悔しました。

その方が早く帰れたかもしれないのに、と。

獣道を入ると、砂利道とは比べものにならないくらい酷い悪路で、スピードどころか進むのがやっとでした。

もう完全に気が滅入り、ただただ早く帰れますようにと祈りながら走りました。

そしたらまた誘導棒が…。

今度こそちゃんとした道に出してくれと思いながらガードマンを見ると、何か違和感を覚えました。

誘導棒は、このまま真っすぐ、という指示を出しています。

この違和感は何だろうと思いましたが、指示された通り、また獣道を進みます。

そしてまた、誘導棒が…。

その時気付きました。

ヘッドライトに映されたガードマンの顔が、同じなのです。

最初に誘導したガードマンと、横道に誘導したガードマン、砂利道に誘導したガードマン、この獣道に誘導したガードマン、全て同じ顔をしているのです。

背中に冷たいもを感じ、頭の中は恐怖でいっぱいになりました。

息をするのがやっとで、理由は分かりませんが、このまま行ったら二度と家に帰れなくなる、と思いました。

私はギアをバックに入れ、思い切りアクセルを踏みました。

必死で踏みました。

前方も後方も見るのがとても恐かったのですが、暗闇をバックミラーで確認し、アクセルを踏み続けました。

砂利の音が聞こえた時、慌ててドライブに切り替え、草木にぶつかりながらも進みました。

進んですぐ、誘導棒が見えました。

心臓が大きく波打ちました。

ガードマンがじっと私を見つめていたのです。

生気を感じさせない目でじっと…。

それからは、どこをどう通ったのかよく覚えていませんが、無事に帰宅する事ができました。

時刻は0時を過ぎ、ご飯もお風呂も忘れ、ベッドで震えながら夜を明かしました。

くたくたでしたが、恐怖で眠れませんでした。

この事があってから、その道は一度も使いませんでした。

毎日かなり早起きをして、山道を通って通勤しました。

日が登っていても、その道を通るのが恐かったのです。

帰りも勿論、山道を使いました。

夜にあの道を通るなんて以っての外です。

工事が終わってからもしばらくその道は使いませんでしたが、二年経った今、ようやく通れるようになりました。

あまり使用しませんが…。

あの頃に比べると、道幅が広がった為にだいぶ感じが変わりましたが、あの時抱いた恐怖は今も変わりません。

もう二度と、夜に工事中の道路は通りたくありません。

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