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軽自動車

2017.09.07.Thu.11:15

489 :

何年か前にひどい目にあった話を投下します。

何年か前のある日の夕方、俺は友人Aを乗せて車を走らせていた。少し離れた友人Bの家で、酒盛りをする為である。

プチ同窓会のような感じで、大学時代の仲の良かった10人くらいで集まって飲もうか、ということになったのである。

そこで、家の近かったAを拾ってからBの家に向かう予定だったが、

Aが時間を勘違いしていて、出発が遅れたのである。

平謝りするAを車に乗せて結構なスピードで走っていたが、間に合うかどうか微妙だった。

友人Bの家は、山を越えた向こう側にあった。山越えの道に入ったら、車は俺ら以外に走っていなかった。 

曲がりくねってはいるが一本道で、信号もなく片側一車線のそれなりに走りやすい道なので、

俺は調子に乗って飛ばしていた。

Aと他愛もない話をしながら車を走らせていると、

前方にやたらゆっくりと走っている、軽自動車のテールランプが見えた。 

一本道であるために、山を越えてふもと付近に下りるまで追い越すスペースがない。

はっきり言って、焦っている俺たちには邪魔な存在だった。

そうこうしているうちに、軽に追いついてしまった。

俺とAは何を会話するわけでもなく、いらいらしながらその後ろを走っていた。

しばらく軽の後ろを我慢して走っていたが、やたら遅い。カーブの度に止まりそうな位ブレーキを踏む。 

いくらなんでも遅すぎる。

この焦っている時に勘弁して欲しい、ってくらいの嫌味な速度で走り続ける軽自動車。

俺はとうとう痺れを切らしてAに言った。

490 :

俺「いくらなんでも遅すぎるよなあ。見通しのええ所で対向車線に入って追い越すぞ」

A「・・・・・・・・・」

ん?Aから返事がない。ちらっと見ると、Aは真っ青な顔をしていた。

なんだか尋常な様子ではない。調子に乗って飛ばしすぎたから、車に酔ってしまったのだろうか・・・。 

俺「おいA。どうした。気分悪いか?」

A「・・・・・・・・・」

俺「おい?どうした?」

Aに声をかけるが返事がない。気分が悪いというか、何かに怯えている? 

俺「おい!A!なんだ?何があった?」

ちと怒鳴り気味に声をかけると、Aははっとしたように口を開いた。 

A「あれはまずいぞ、Y(俺)!早く追い越してくれ!」

俺「はあ?何がまずいねん?訳分からん。まあ、追い越すけど・・・」

前が遅くていらいらしている所に、Aの訳の分からんリアクションでさらにムカッと来た俺は、

少し見通しの良い直線に来たところで軽を追い越した。

軽の前に入ってグッと加速する。

軽をバックミラーで確認すると、あっという間にいなくなった。

追い越しをかけて軽快に車を走らせていると、少し気分が落ち着いた。

Aの方をチラッとみると、Aも顔色が良くなって落ち着いているようなので、先ほどの事をたずねてみた。

491 :

俺「おいA。何があった?」

A「・・・あのさ、見間違いかも知れんけどな。あの軽っておかしくなかった?」

俺「おかしいって・・・。まあ、異様に遅かったけどな。

 どうせ爺さんか婆さんかおばはんの、とろとろ運転やろ?」

A「・・・あの軽の中見んかった?」

俺「・・・見てないけど?」

A「・・・まあ、ええやん。止めよ。この話」

俺「そこまで話し振っといて止めれるかいな。なんやねん、一体」

話しながら、ふとバックミラーに目をやると、

さっきまで何もいなかった真後ろに、車が一台くっついて走っていた。というより、もろに煽られていた。

どう考えても、さっき追い越した軽が煽ってる以外に考えられない。 

しかし、物凄い煽りようである。パッシングするはハイビームだわ・・・。

それでも、俺は速度上げて頑張って走ったが、一向に振り切れない。

そして挙句の果てに、クラクションまで鳴らし始めた・・・。

背筋に寒い物が走った。

俺「あかん。道譲るわ。さっきまであんだけとろかったくせに・・・」

そうAに告げると、Aが物凄い剣幕で言い返してきた。 

A「あかん、ぜったいあかん。譲ったら、止まったらあかん!!!」

俺はAの様子に少々びっくりしたが、落ち着いてAに言った。 

俺「無理。こんな調子で煽られてこんな速度で走ってたら、事故起こすわ。譲る」

Aが何故か涙目で俺を見ていたが、「分かった」と一言言うとうつむいてしまった。 

俺が道を譲ろうと左ウィンカーを出し、速度をゆっくり落としながら車を左に寄せ始めると、

「ゴツン」という衝撃が後ろから走った。

早く行けと、バンパーでこづいているような感じだった。

相手が尋常じゃない奴だと、今更ながら気付いた。

道を譲るのは無理だと判断した俺は、また速度を上げて走り始めた。 

物凄く恐ろしかった。下手に減速できない。道を譲る事も出来ない。

とにかく逃げ込めるスペースのある場所まで、事故を起こさないように走り続けるしかなかった。

もう少し行けば、山頂に休憩用の駐車スペースがあったはずだ。

492 :

ものすごい煽りのプレッシャーを受けながらも、なんとか道の左側に山頂駐車場の出入り口が見えた。

24時間無料なので、出入り口はチェーンなど掛けられていない事は知っていたし、かなり広い場所なので、

スピードを出していたが、ぶつけずに駐車場に入る事が出来た。

駐車場の中に入ってすぐに車がスピンしてしまった。強引な角度で入ったためスピンしたのだろう。 

突然のスピンに気が動転したが、

幸いにも駐車場には他に車はなく、かなり広い事もあって、どこにもぶつけずにすんだ。

停止してほっとして気がついた。あの軽自動車はいってしまっただろうか?

ふと一つしかない出入り口を見ると、その出入り口をふさぐ形で軽自動車が停車していた。全身総毛だった。 

俺「どうしよ。なんか待ち伏せしてるみたいやで・・・」

Aに喋りかけたが、Aは先ほどからうつむいたまま、こちらを見ようともしなかった。

もともと気の強い方ではないAの事だ。かなりテンパッる事は、見ても分かるとおりだった。

俺がしっかりしなきゃいけない。

それよりも、先ほどぶつけられている事も気になっていた。

傷でも付けられていたら、弁償してもらわなきゃいけない。立派な接触事故だ。

怯えてテンパッてるAを見ているのと、ぶつけられ煽られた事に腹が立ってきた俺は、

なんであんなのにこっちがおびえなきゃいけないんだ、という気になってきて、恐怖より怒りが前に出てきた。

俺はAに「ちょっと文句言ってくる」と、捨て台詞をはいて車から降り、軽自動車の方へ歩いていった。

もちろんAは物凄い剣幕で反対してきたが、降りてしまえば関係ない。

何でも出てきやがれ、って感じで怒りを前面に出して、相手のほうへ歩いていった。

軽に近づいて不思議に思ったが、中にどんな奴が乗っているか分からない。

前面までスモークフィルムを貼ってるのか?とか馬鹿なことを考えながら、

軽自動車の運転席の窓ガラスをノックした。

すると、運転席側の窓がすーっと開いた。 

中を見た俺は一瞬目を疑ったが、もう一度じっくり確認して・・・

一目散に車のほうへ逃げ帰った。

今まで生きてきた中で、一番早く走って一番大きな声を出しながら・・・。

493 :

軽自動車の窓が開いた時、中には・・・人が乗っていた。

いや、そもそも人なんだろうか。それも何人も。

4人乗りの車に5人とか、そんなに生易しい物ではなかった。 

もうギュウギュウ詰め。例えるなら、通勤ラッシュの満員電車状態である。

隙間がないくらいびっちりと、狭い軽自動車の中が人で埋まっていたのである。

上下左右人の向きは関係なく、テトリスで隙間なく積み上げていくブロックのように・・・。 

しかも全員顔色が真っ青で、目が空洞の様になっていた。

老若男女いろんな人・・・。

その苦しそうな体勢の人たちが一斉に、窓の外に立っている俺のほうに顔を向けているのである。

首が180度回っている奴もいた。

結局中が見えなかったのは、人で車内が埋まっていたからである。

車に戻ると慌てて車を発進させた。

Aは何も言わず、うつむいてガチガチ震えていた。

恐怖でパニクってた俺は、とにかくこの駐車場から出なきゃいけない、逃げなきゃいけないと思い、

強引ではあるが、出入り口に止まっている軽と柵の間のスペースに、

車を滑り込ませて無理矢理すり抜けようとした。

左の柵に当たった。バリバリといやな音を立てて、車と柵が悲鳴を上げた。

しかしそれどころじゃなかった。隣にある軽の方を見ないようにして、思いっきりアクセルを踏んだ。

車の頭が駐車場から道に入った瞬間、ついうっかり右を見てしまった。

視界に軽自動車が入った。中の人が全員こちらを見て笑っているように見えた。

そこで物凄い衝撃を食らって意識がなくなった。

気付いたら病院だった。

494 :

結局、駐車場から車の頭を物凄い勢いで出した俺の車に、

普通に走ってきた車が、俺の車のフロント部分横へぶつかったのである。 

Aは頭を打ったらしいがほとんど外傷がなく、軽い打ち身があちこちにあるくらいで無事だった。 

俺は開いたエアバックに思いっきりぶつかったせいなのだろうか?

鼻を骨折して前歯が3本ほど折れて、足もどうやったのか分かんないけど、右足の骨にヒビが入っていた。

打ち身も体のあちこちに出来ていて熱が出て、しばらく入院を余儀なくされた。 

相手の方は、20過ぎの女性で無傷だった。お互いに車はボコボコだったけど・・・。

結局、警察と保険屋が入って、お互い話し合いして決着は付いた。

後日、退院できるかなといった時に、事故った相手の女性が見舞いに来てくれた。

相手の女性に軽自動車の事を聞いたら、そんな車はいなかったと言われた。

先に退院したAは、やはり前に走っている時から、あの軽自動車の中身が分かっていたらしい。

俺が見てないのなら、俺にまで変な恐怖を味あわせたくなかったから、黙っていたらしい。

車は直せない事もなさそうだったけど、なんだか縁起が悪そうだから廃車にした。

退院はできたけど、打ち身の痣がしばらく消えなかった。

なんだか痣の形が、手のひらで叩いた後のようになっていた。

それも、大きい物から小さい物まで、たくさんの人に叩かれたようになっていた。

ちなみに、Aの体に出来た打ち身もそんな感じだったらしい。

Aが、財布の中に入れてあった母親から貰った身代わりお守りが、(そんなようなもんがあるのかな?)

粉々に割れていたとも言っていた。

結局、手の形をした痣もそれも、時間はかかったけど今ではすっかり綺麗に直った。

オチも何もないけど、洒落にならんかった。怖かった。

あの軽自動車もなんだったか分からない。 

今でも車を運転していて後ろを煽られると、あの時の事を思い出す。

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