開かずの部屋

2017.10.18.Wed.21:15

うちの会社には、開かずの間がある。 

嘘みたいなほんとの話で、確かにある。 

会社は3階建て。その3階の端に資材倉庫があり、その倉庫の奥に扉が設置されている。 

新人の頃、資材を取りに倉庫に行った際にドアの存在に気付き、当時の先輩に聞いてみたが、

「気にすんな」の一言で片付けられた。 

会社の外から見てわかったが、そのドアの先には部屋があるようで、窓も付いている。

常にカーテンが閉められていて中は見えないが。 

不思議に感じたが、まぁ倉庫の一部だろう、と思っていた。 

1ヶ月ほど前、我が部署に新人のKが配属された。 

4月からの研修を終え、正式に配属されてきたピカピカの一年生。 

新人ということで、俺の時と同じように色々と雑用を頼まれることもある。 

ある日、その新人のKが俺に質問をしてきた。 

「○○さん(俺の名前)、あの、この前資材倉庫に行ったんですけど・・・」 

ピンときた。

「あぁ、あの扉のことか?」

「そう、そうです。何ですかね?あの扉。奥の部屋も倉庫なんですか?」

俺と同じだ。なんだか微笑ましい。 

「あれな、俺もよく知らないんだ。昔、俺も先輩に聞いてみたら、気にすんな、って言われたよ」

「そうですか・・・。あれ、カギ掛かってるみたいなんですが、倉庫のカギで開くんですかね?」

「どうだろうな。試したこと無いけど。倉庫なら開くんじゃないか?」

「うーん・・・今度行ってみるかな」

なかなか好奇心旺盛なヤツだ。俺も何か気になるので、「中に何かあったら教えてくれよ」と言っておいた。 

その翌日。またKがやってきた。

「○○さん、ダメでした。あれ、倉庫のカギじゃ開きませんよ」

どうやら、あの後すぐ開けに行ったらしい。

「そうか、ダメか。じゃあ別のカギがどこかにあるんだろうな」

「いえ、違うんですよ。あの扉、こっちからは開けられないみたいなんです」

「ん・・・?」 

「カギは掛かってるみたいなんですが、こっちからのカギ穴なんて無いんですよ」

「な・・・?。じゃあ、あれか?内側からカギが掛かってるってことか・・・?」

「そうなりますかね・・・」

嫌な悪寒を感じた。 

内側から掛かってるカギ。ということはどうなる? 

カギを掛けた何者かが、あの部屋に居るってことか。 

まぁ、あり得ない構造ではない。でも何か引っ掛かる。 

「何ですかねぇ。誰か専用の個室なんですかねぇ」

「まぁ、閉じ込められてるって訳じゃないし、そいつの意思で自由に出入りはできるからな」

と言って、自分で気付いた。 

「そうですねぇ。自閉症か引き篭もりの人でも居るんですかね~」

「いや待て、おかしいな」

「何がです?」

「その扉はそいつが開けられるとしても・・・あの倉庫、内側からカギは開けられないだろ」

全く不可解だ。 

奥の扉は内側から開けられるが、倉庫自体の扉は開けられない。 

倉庫のカギは、資材を取り出す時以外は、常に閉めることになっている。 

つまり、そいつは倉庫に閉じ込められていることになる。 

「あ・・・そうなりますね。そうだ。それに・・・あの部屋。夜、外から見ても明かり点いてたことないですよね」

そうだ、確かに。残業で夜遅く帰るときでも、あの部屋から明かりが漏れていたことなんてない。

カーテンの隙間はあるのに。

「気になりますね・・・ちょっと調べてみましょうか」 

「うーん、まぁほどほどにな」

翌日から俺は出張だった。 

ユーザーにペコペコ頭下げて、接待しつつマズイ酒を飲んで、本社に戻ってきたのは3日後だった。 

帰ってきた俺が聞いた最初のニュースは、「Kが会社に来ない」という話だった。 

そしてその翌日聞いたのは、「Kが1人で暮らしてるアパートにも居ない」という話だった。 

実家にも帰っておらず、結果、Kは行方不明となった。

当然、俺はあの倉庫の扉が気になった。 

しかし、出張から帰りたてで、書類整理に忙しかった。 

それで気付くのが遅れた。 

出張に行った翌日、Kからメールが来ていた。気付いたのは帰ってきてから3日後だった。 

出張先でも、特定の送信者からのメールは受け取れるようにしているが、

Kは新人であったため、受け取る対象にしていなかった。まぁ・・・言い訳だ。 

メールは一文だけで、こう書かれていた。 

『あきました』 

あれから数週間経つが、Kはいまだに見つかっていない。 

俺はもう倉庫には行かないようにしている。 

あの扉が原因なのかどうかは分からないが、何か関わっていると俺は確信している。

先日、昔俺が扉のことを聞いた先輩に会った。今は支社に勤めているので、会うのは数年ぶりだった。 

俺はKの話をしてみた。すると、先輩は扉のことを教えてくれた。要約するとこんな感じだ。 

・10年くらい前にも、扉に関心を持った社員が行方不明になっている。(先輩の同期らしい)

・ここは場所が悪い。「霊が集まり易い場所だ」と聞いたことがある。 

・会社の設立時、特別な部屋を作り、そこに”何か”を置き、誰も入れないようにした。 

・何が置かれているかは知らない。社長は知ってるかも?(当然聞けない)

 御神体だとか、怪しげな壷だとか、中には生贄を捧げた、なんて噂もあった。 

話を聞いて、俺は疑問に思ったことをぶつけてみた。 

「なんで扉を付けたのでしょう?」

「部屋なんだから、扉がないとおかしいだろ?」

最もなことを言われた。確かに”部屋”というものなら、それは必要かも知れない。 

更にもう1つ聞いてみた。

「じゃあ、窓は?なくてもいいですよね?」 

「・・・」 

先輩はしばらく黙ってしまった。そして、こう答えてくれた。 

「誘き寄せるには、必要なんだろ。お前、もうあの窓見るなよ?何か見えても、見なかったようにしろ、な」

俺の頭には、あの窓からKが呼んでいる絵が浮かんだ。 

窓側の道を通るたび、俺は視線を感じる。 

いつか見上げてしまいそうな気がする。 

耐え切れず、俺は転勤願いを出すことにした。先輩と同じように。

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