父親と心霊スポット

2017.10.21.Sat.21:15

俺と弟は心霊スポットが好きで、曰く付きの廃墟とか夜中に侵入してた悪ガキだった。 

残念ながら二人とも霊感はないから、ほとんど廃墟探険なんだけど、何もない田舎じゃそれだけでも楽しかった。

ある夜、親父が「お前らもホント好きだなw」って笑いながら、

これから夜遊びしに行こうとする俺らを嗜めてきた。

この親にしてこの子ありって言うし、親父も昔はこういう事やってたんだろうなぁと悟った俺は、

「今度親父も行かねぇか?」って誘った。 

そうしたら親父もまんざらでも無さそうに、「仕方ねぇなw」と了承したので、

心霊スポット探索に、近いうち連れていく事になった。 

俺と弟はアホな悪ガキだったから、「親父をドッキリにはめてやろうぜ」ってことになり、

心霊スポットへ行く直前、弟の車の後ろに、絵の具でベタベタと赤い手形を付けていくことにした。 

準備は万端、晩酌で完全にデキあがった親父を車に乗せるのは容易かった。 

「全然怖くねぇよ!俺がお前らの頃には…」と意気がる親父を尻目に、ほくそ笑む俺と弟。 

その日に向かった場所は、3~40年ほど前、村八分に合って暮らしていけなくなり、一家心中をはかったという、

町外れにある木造の廃墟だ。 

地元では結構有名なスポットであり、近場でもあったため、俺と弟の巡回コースだった。 

国道から外れ、ゴミ処理場へ続く町道を車で走る。 

運転席は弟、助手席には俺。後部座席には、先程までふんぞり返っていた親父が、言葉少なになっていた。 

舗装されていない砂利道を、ヘッドランプの明かりだけで車はひた走る。

周りには、民家の明かりはもちろん街灯すらない。

ピシッピシッとフロントガラスに当たる枝も多くなってきた。 

いつも通り馬鹿話で盛り上がる俺と弟。それに対して、雰囲気に圧されたのか完璧に黙りこくる親父。 

目的地の廃墟まで数百メートルというところでだ、いきなり「おめぇら!やめれ!」と親父が叫んだ。 

突然のことで、俺もさすがに心臓が止まるかと思った。弟もこれには急ブレーキ。 

後部座席を覗くと、怒り心頭っていうか、何故か尋常じゃないくらいビビってる親父がいた。 

「あんまビビルことないってw」「すぐそこだからw」 と宥めすかす俺と弟。 

それでも「うるせぇ!ダメだ!この先に絶対行くな!帰るぞ!」ときかない親父。 

一悶着あったが、家長である親父の命令には逆らえず、結局バックしてそのまま帰ることになった。 

帰り道、肩透かしを食らい白けたムードの車内で、

「わりぃな。ビビっちまってよ…」と、親父がぽつりと洩らした。

その後は、

「仕方ねぇなw」

「親父、案外チキンじゃん」

「うるせぇ、バカヤロー」

と、なんとか行きと同じムードに戻ったので、俺は一安心した。 

まぁ、本当のお楽しみはこれからだったしね。 

家に到着し車のエンジンを切る。 

何食わぬ顔で車を降りた俺と弟だったが、横目でしっかりと車の後ろへ回り込む親父の姿を捉えていた。 

親父が後ろの手形を見つけた瞬間、「ヒィッ!」って叫び声を飲み込んだような声をあげた。 

作戦は大成功だった。当然、俺と弟は吹き出しそうになった。 

それでも堪えて、「親父どうしたんだ?」って聞いたんだよね。 

『しょうもないことすんな』って親父からゲンコツ一発はもらうつもりでいたけど、

当の本人の様子は、俺たちの予想とは大きくかけ離れていた。 

真っ青になりながら、「いや、なんでもない…」って言って、俺と弟の背中を強引に押し家に入った。 

「なぁ親父…」と食い下がっても、「うるせぇ!」と一喝される。 

過剰ないたずらに怒ったのかなと思ったが、

やはりどちらかと言えば、心の奥底から怯えていると言ったほうが正しいだろう。 

「早く寝ろ」と有無を言わせない命令をされた俺たちは、ネタばらしすることもできず、しかたなくそれぞれの部屋に戻った。 

明らかにおかしい親父の態度のことを考えると、俺は眠れることはできそうになかった。 

2時か3時ごろだったと思う。案の定眠れなかった俺は、ぼんやり外を見てた。

すると、庭の車に何か影が見えることに気付いた。 

車の陰で動いているソレは、ここからではちゃんと確認できない。 

妙な胸騒ぎがしたので、裏口からこっそり、足音を立てないように車が見える所まで行った。 

車の後ろの影は、明らかに人のものだった。

ぎりぎりまで近づいて、ようやく影が何かわかった。正体は親父だった。 

親父がこんな真夜中に、バケツと雑巾を持って、あの手形を洗い落としていたのだ。 

しかもあろうことに、号泣しながら。 

遠くからだったので、多少脳内保管が入ってるかもしれないが、こんな風に聞こえてきた。 

「許してくれ…ウッ…頼むからゆるしてけれ、な…ゆっ(ゆう?)ちゃん…あの子らだけは…後生…恨むなら……」 

何かに詫び続けながら車を磨く親父を見て、なんだか恐ろしくなり、俺は急いで家に帰り布団に潜った。 

翌朝、何事もなかったかのように「おはよう」と起きてきた親父。

それでも目には、明らかに泣き腫らしたと見られる跡があった。 

弟も昨日のことで釈然としないのか、俺を問い詰めてきたが、

深夜の奇妙な行動を話すと、さすがに顔を強ばらせた。 

結局、あれから一度も、親父にはこのことを話していない。

車の手形も綺麗さっぱり、最初から無かったことになった。

そして例の心霊スポットには、行くことはおろか話すことも、俺と弟の間ではタブーになっている。

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