注連縄

2017.11.09.Thu.21:15

俺の田舎の祭りに関する話を投下します。 

俺は神戸に住んでいるんだけど、子供の頃、オヤジの実家である島根の漁師町へ、良く遊びに行ってた。 

9歳の時の夏休みも、親父の実家で過ごした。

そこで友達になったAと毎日遊びまくってて、毎日が凄く楽しかったね。

ある日、Aが「神社に行こう」って言いだしたのね。

しかも、「神社の社殿の中に入ってみようぜ」って。 

この神社についてまず説明させて下さい。

神社は山の上に立ってて、境内にまず鳥居がある。

山から麓までは階段が続いていて、麓にも鳥居。

それから、鳥居からまっすぐ海に向かうとすぐに浜に出るのだが、浜辺にも鳥居が立ってるの。

つまり、境内から海まで、参道がまっすぐ続く構造。ちなみに神明社。 

話を戻すと、俺はAについていって麓の鳥居の前まで来たんだけど、

神様の罰が怖かったのと、なんだか妙な胸騒ぎと言うか、嫌な感じがしていたから、「行かない」って言った。

Aには「この弱虫」とかさんざん言われて、癪だから随分迷ったんだけど、結局俺は行かなかったのね。

それで、20分ほど待ってたらAは戻ってきて、

「つまんなかった。社の中にはなんもない。鏡があるだけ」と言っていた。

なんだそんな物かと、俺はほっとした。 

次の日には、Aから弱虫呼ばわりされたのもケロリと忘れて、Aとやっぱり遊びまくってた。 

楽しい夏休みもいずれ終わる。

家に帰る時、Aは見送ってくれて、再来を約束した。 

A「またな、来年も絶対来いよ」

俺「おう。約束する」

で、次の年の夏休みも島根に来たんだけど、

俺は御馳走されたスイカを食べながら、「明日は、Aと遊びたい」と言ったら、

ばあさんと叔父さんの顔が急に曇ったのよ。(ちなみにじいさんはずっと前に亡くなってます)

叔父「あのなあ、お前はA君と仲良かったから黙ってたんだけど、実はA君は死んだんだ」

俺「えっ」 

叔父「夏休みが終わって、三日程してかな。海でおぼれちまって……」

もう俺はショックだった。

昨年の事を思い出して、もしかしたら神社の罰かもと思ったけど、

まさか社殿に入っただけで、神様が祟り殺すはずはないよなーと思い直した。 

それから話が飛んで、俺が大学生の頃、オヤジが亡くなりました。 

オヤジが亡くなった年の12月初旬に、叔父さんから電話があって、

大晦日から元旦にかけて行う、オヤジの地元の祭りに参加しろとのことだった。 

「おっちゃん、俺、神戸なんだけど。交通費もかかるし、参加しなくてもいいでしょ」

『馬鹿、お前、兄貴が亡くなったから、お前が本家の当主だぞ。

 ○○(俺の名字)の本家が祭りにでないなんて、絶対に駄目だ。

 兄貴も毎年参加して、元旦に神戸へUターンしてただろ』

「おかげでお袋は、『その祭り、本当に参加しなきゃいけないの!』って、毎年ぷりぷりしてだけどね」

『ああ、言い訳は良いから』

と言われて、しぶしぶ祭りに参加させれる事にちまった。 

当日、大晦日の20時に付くと、叔父さんがイライラして待っていた。 

「おせーぞ。19時には着くって言っただろ」

「ごめんごめん、松江で鯛飯食ってたらから。でも祭りは21時からだから、十分間に合うでしょ」

「馬鹿、潔斎する時間を考えろ」

俺は潔斎と言われて驚いた。そんなに本格的な神事なのか?

俺は慌ただしく風呂場で潔斎して、オヤジのお古の家紋入り羽織袴を着せられ、

祭りの会場の浜まで走って向かった。 

浜には、やはり羽織袴の人達がいっぱいいる。

この祭りは女人禁制どころか、各々の家の家長しか参加が認められいないものらしい。

時間が来たら、神主さんが海に向かって祝詞を唱えて、神様をお迎えする。

後は参道を通って、境内まで神主さんを先頭に、松明に照らされてぞろぞろと行列。

神様を社殿に鎮座させた後は、能や神楽等が催されて、一晩中、飲めや踊れやの大騒ぎで一晩過ごす。

飲みまくるのは神人共食神事?って奴かな。 

酒飲んで良い気分になってふらふらしてきた頃、社殿をぼーと見てたら、なんだかおかしい事に気付いた。

注連縄なんだけど、左が本、右が末になってる。つまり、逆に付けられてんだよね。

なんだこりゃ、と思いつつも酔ってたから、余り深く考えなかった。 

次の日、なんとなく気になって、叔父に注連縄の事を尋ねてみた。 

「ねえ、神社だけどさ、注連縄逆じゃない」

「なに、お前、そんな事も知らずに祭りに参加してたのか」

「だって、オヤジも教えてくれる前に死んじゃったし、おっちゃんも教えてくれてないでしょ」

「そうか……すまんな。じゃあ、きちんと説明しておくか」

「頼むよ」

「あの神社なあ、神明社で天照大御神を祭ってある事になってるけど、実は違う。ご祭神はもっと恐ろしい物だ」 

「えっ、そうなの」

「明治時代に、各地の神社の神様が調査されたんだけど、

 役人がこの土地に来た時、単に土地の者は神様って呼んでただけで、神様の名前は知らなかった。

 何しろ昔の人間は、神様の名前なんて恐れ多くて知ろうともしなかったし、興味もなかった。

 それで、役人が適当に神明社ってことにしたらしい。

 こうやって、各地の無名の神様が、記紀神話の神様と結びつけられてったんだな」

「じゃあ、何の神様か分かんないんだ」

「いや、名前が分からんだけで、どんな神様かは分かる。お前、御霊信仰って知ってるか」

「知ってる。祟り神とか怨霊をお祀りして鎮めることで、良い神様に転換して御利益を得るやつでしょ。

 上御霊神社とか天神様とか。……まさか」

「そうだよ。海は異海と繋がってるって言われるだろ。だから、良くない物が時々海からやってきてしまう。

 特にここら辺は地形のせいか、潮のせいか、

 海からやってきた悪霊とか悪い神様が、あの浜には溜まりやすいらしいな。

 それが沢山溜ると、漁に出た船が沈んだり、町に溢れて禍をもたらしたりする。

 だから溜る前に、こっちから神様をお迎えして神社に祭る。それが祭りの意味だよ」

叔父さんは続けて語った。

「だから、注連縄はあれであってる」

「えっ、どういう事」

「注連縄って、穢れた人間が神域に這入ってこれない様に。

 つまり、外から内に入れない様張り巡らすもんだろ」

「そうだね」

「あの注連縄は逆。内から外に出れない様に張り巡らされてる。

 つまり、神様が外に出れないように閉じ込めてんだよ」

俺は昔を思い出してぞっとしたね。

昔、Aが社殿に入り込むと言う事が、どれだけ無謀で危険な行為か理解できた。

Aはむざむざ外に出れないように閉じ込められている悪霊、悪神の巣に入って行った訳だ。

もし俺があの時、Aの話を断れずについて言ってたらと思うと……。

背筋が凍りついて、気が付くと手に汗でじっとりと濡れていた。

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