神谷のおばさん

2017.11.10.Fri.21:15

俺が中学の時、『神谷のおばさん』という有名人がいた。 

同級生神谷君の母親なので『神谷のおばさん』な訳だが、

近所は勿論、同じ中学の奴もほとんど神谷のおばさん知ってる位有名人。 

見た目は普通のおばさんなんだけど、とにかく話を聞くのも話すのも上手い人で、

地元じゃ有名なヤンキーすら、「神谷のおばさんに怒られちゃしょうがない」って悪さ止めるくらい。 

俺達中学生の下らない悩みとか、相談を真剣に聞いてくれたし、

本気で怒ったり励ましたりしてくれる人だったな。 

親とか先生には話せないことを、相談出来る大人って感じ。皆の母ちゃんっていうか。 

で、神谷のおばさんといえば『怖い話』。って思い出す位、怪談物が得意だった。 

内容は多分よくある怪談なんだけど、とにかく話し方が上手いんだよ。 

滅茶苦茶怖くて、女子なんかキャーキャー大騒ぎになるくらい。 

そんな神谷のおばさんに関する話。

俺が中2の秋、クラスに転入生が来たんだよね。秋山君っていったと思う。

田舎だったからあんまり転入生とかなくって、結構注目されてたような気がする。 

背が高くて、顔立ちも整ってて、いかにも女に受けそうな奴だなぁってのが、俺の第一印象だった。

最初の頃は皆、秋山の周りに行ってあれこれ世話してたんだけど、日が経つにつれ、秋山は皆から避けられていった。

「犬に石ぶつけてた。犬が怪我しても止めないの」 

「猫をおもいっきり蹴って、猫がピクピクして身動きしないのを、踏みつけようとした」 

勿論担任の耳にも入り、注意されたみたいだけど、母親が乗り込んできて、

「学校で悪いことしてないでしょう!勉強だって出来るんです!(実際成績はトップクラスだった)

 犬猫に何したって、成績良ければいいじゃないですか!」

と大騒ぎしたらしい。 

今でいうモンペだったんだな、母親。 

噂では、前の学校でも問題起こして、母親と学校が揉めたらしく、それで両親が離婚。

母親の実家に戻って来たってことだった。 

うちの母親が地元出身で、この秋山母のことも良く知ってたとかで、そんな噂も俺の耳に入ったわけ。 

しかし、うちの担任は熱血漢で、はいそうですかとは引き下がらない。 

「命の大切さ!弱いものを慈しむ心!教育とは勉強だけじゃないんですよ!」と、全面的に争う姿勢。 

日頃担任をうざがってたヤンキー連中すら、「全くだ」と応援してたのがおかしかった(笑) 

とにかく秋山は怖かった。

ヤンキーとかの不良に感じる怖さじゃなくて、得体が知れない闇みたいで、本気で皆怖がってた。 

ある日、俺が神谷ん家に遊びに行くと、ちょうどおばさんと神谷が買い物に行くところだった。 

近所のスーパーなんだけど、米やら重いもの買うから付き合うんだとのこと。

なら俺も付き合うよと、三人でスーパーに向かう。 

買い物中、秋山が少し離れた所にポツンと立ってるのに気付いた。

秋山の家はここから大分離れてる。ちょっと買い物にしては不自然だった。 

俺は神谷の事を肘で小突いた。神谷もすぐに秋山に気付いたみたいだった。 

「何でこんなとこにあいついんの」

「知らねぇ」

ひそひそやってたら、おばさんが後ろからスッと顔出した。 

「あれ、あんたが言ってた秋山君って子?」と呟く。 

「良く分かったな~」と二人でビックリしてたら、 

「アレは駄目。近寄らないでね。それしか方法が無いわ」 

それだけ言うと、おばさんは買い物に戻っていった。 

今までどんな不良でも決して見捨てなかったおばさんの一言が、えらいショックだった。 

「うちの母ちゃんがあんな事言うなんて」と、神谷もかなり驚いたらしい。 

それからしばらくして、秋山がパッタリ学校に来なくなった。 

でも誰も心配しなかったし、むしろこのまま来ないで欲しいという空気だった。 

何回か母親が学校に乗り込んできて、

「イジメがあったはずだ!だから息子はおかしくなったんだ!」と騒いでいた。

イジメは無かったけど、クラスで孤立していたのは事実だから、何かゴチャゴチャはしたらしい。 

実は俺の家にも、秋山母が来たんだよね(笑)うちの母ちゃんのこと、向こうも知ってたみたいで。 

「あんたの息子が苛めてたんじゃないのか」 

「うちの子が出来がいいから妬んでた」 

「どうせろくでもない息子だろ。お前の息子が狂えば良かった」 

最初は穏便に追い払おうとしたうちの両親も、最後はかなりキレてたな(笑) 

俺は何となく悲しかった。

ああ、このおばさんも狂ってるんだなぁ…って。 

三学期も終わり、春休みのある日、俺は神谷の家に遊びに行った。 

おばさんと三人でお喋りしてるうちに、ふと秋山の話になった。 

実はずっと気になってたんだよね。なんで秋山に近寄らない方が良かったのか。 

秋山は結局学校に戻らなかった。完全におかしくなっちゃって、今でも病院らしい。 

秋山母も、離れた病院に入れられたらしい。秋山祖父母は我関せず。 

「あんなキ○ガイうちの人間じゃないから、死ぬまで入院させておいてくれ」と言ったとか。 

そんな話と、家まで怒鳴り込みかけられた話との後、俺は神谷のおばさんに聞いた。 

「結局秋山はなんだったの?」

おばさんは少し考えた後、「人間ではない」と答えた。

「一目見てわかったよね。もう人間じゃなかった。 

 本当の秋山君は、多分普通の子だったと思うよ。

 小さい頃から少しずつ食べられて、本当の秋山君はもういなくなっちゃってた。 

 秋山君の皮の中に、ドロドロした念が詰まって、人間の形になってるだけ」

俺も神谷も驚愕した!今まで『怪談』は良くしてくれたけど、

こんな霊能力者みたいな事を、おばさんが言ったのは初めてだったのだ。

「な、なんでそんなことになっちゃうの?!怖いよ!」

真剣にビビる俺(笑)神谷も真っ青だった(笑) 

「親の因果が子に報い~ってやつかしらね? 

 あの家のお祖父さん、何人も人死なせてる。 

 直接殺した訳じゃないけど、あのお祖父さんのせいで死んだ人が沢山いる。

 秋山君のお母さんが歪んでるのはそのせい」

「でも、それじゃおさまらなかったから、秋山君までいっちゃったのね。 

 死んだ人の恨みとか呪いが禍々しいモノを呼んで、秋山君は食べられちゃった。可哀想に」

「そんなのないよ!じゃあ秋山悪くないんじゃん」と神谷が言う。

「因果ってそんなもんなのよ。個人じゃなくて『血』に祟るの。親しい人とかね。 

 あんたらも心しておきなさいね。そういうのには、人間の理屈は通用しないのよ」 

神谷のおばさんは、最後こう言った。

「見てなさい、あのお祖父さんだって。

 さ~て、お夕飯の支度しよっと!あ、木村くん(俺)も食べていきなさいね~」

と、おばさんは普通に台所に消えていった… 

俺と神谷はすげぇ落ち込んでた(笑)

だって、自分が悪くないのに、そんな目に合うなんて怖すぎる… 

何となく、この話は誰にもしない方がいい気がして、(神谷のおばさんが変な人扱いされそうで)

俺と神谷だけの秘密みたいな扱いになった。

俺も今や40近くなり、おばさんは鬼籍の人となったから投下した次第。 

その後、秋山の祖父は病気になり、全身が麻痺。寝たきりになった。 

祖母は看病疲れで亡くなり、じいさんは施設に入れられた。 

秋山祖父は昔は強欲な金貸しやってて、相当悪どかった、と後から聞いた。 

じいさんが入れられた施設に、うちの母親の同級生が勤めていて、

その人情報だと、全身硬直していて座ることも出来ない。それなのに痛みが止まらない。

いくら処置しても床擦れが治らない。床擦れから感染して、色んな病気になる。それなのに死なない。 

「あれは生地獄だよ」と。

結局じいさんはつい最近まで、つまり20年近くそのままだった。 

秋山母と秋山に関してはよく知らない。生きているのか死んでいるのかさえ。 

結局全て偶然なのかもしれない。

秋山祖父はただ性質の悪い病気になっただけで、秋山母と秋山は精神病を患っただけ。 

だって、世の中には何も悪い事してなくても、病気や事故で不幸な目にあった人はいっぱいいるし。 

それでも俺は、いまだに墓参りや法事には真剣に参加してる。

ご先祖様ありがとう。皆のおかげで俺は幸せに暮らしてます。

関連記事
コメント

管理者のみに表示