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出発前

2018.02.04.Sun.21:24

「おまえ、早くしろよ」

男は支度をしている妻に向かって言った。女ってやつは本当に時間がかかるもんだ。

「もうすぐだから。そんなに急ぐことないでしょ。…もう、ほら翔ちゃん、バタバタしないの!」

確かにせっかちだが、今さら仕方がない。



今年もあと少しで終わりか…。男はスーツのポケットからタバコを取り出し、火をつけた。

「いきなりで、お義父さんとお義母さんビックリしないかしら?」

「なあに、孫の顔を見ればすぐに笑顔になるさ」

男は傍らで横になっている息子を眺めて言った。

「お待たせ。準備できたわよ。ねえねえ」
「なんだ?」
「あなた、ここ」

女房が男の首元を指差すので、触ってみた。

「あっ、忘れてた」
「もう、ほんとにそそっかしいんだから。こっち向いて」
「あなた…ずっと愛してるわ」

女房は男の首周りを整えながら、呟いた。

「何だよ、恥ずかしいじゃないか」
「たまにはいいでしょ、夫婦なんだし」

女房は下を向いたまま、照れながら微笑んだ。

「俺も愛してるよ」

こんなにはっきり言葉にしたのは本当に久しぶりだ。少々恥ずかしかったが、悪い気分ではない。男は、女房の手をきつく握った。

「じゃ、行くか」
「ええ」

男は、足下の台を蹴った。

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