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ヤマノケ

2018.02.27.Tue.21:09

男は娘を連れて、ドライブに行った。なんてことない山道を進んでいって、途中のドライブインで食事をして。

そして、男は娘を脅かそうと思い、舗装されてない脇道に入り込んだのだった。

男は娘の制止が面白くて、逆にどんどん先へ進んでいった。その時、急にエンジンが停まってしまった。

…山奥だから携帯も繋がらないし、あいにく車の知識もない。男は娘と途方に暮れてしまった。




さっき食事をしたドライブインも歩いたら何時間かかるか。仕方がないのでその日は車中泊して、次の日の朝から歩いてドライブインに行くことにした。

車内で寒さをしのいでるうちに、夜になった。
たまに風が吹いて木がザワザワいうくらいで、夜の山は何も音がしなかった。

いつの間にか時間が過ぎて、娘は助手席で寝てしまっている。俺も寝るか、と思って男が目を閉じてたら、何か聞こえてきた。

後から思い出しても気味悪い、声だか音だか分からない感じで、
「テン(ケン?)…ソウ…メツ…」
と何度も繰り返している。

最初は聞き間違いだと思い込もうとして男は目を閉じたままにしていたが、音がどんどん近づいてきてる気がして、たまらなくなって目を開けた。

そうしたら、白いのっぺりした「何か」が、めちゃくちゃな動きをしながら車に近づいてくるのが見えた。

形は「ウル○ラマン」のジャ○ラみたいな、頭がないシルエットで足は一本に見えた。

そいつが、例えるなら「ケンケンしながら両手をめちゃくちゃに振り回して身体全体をぶれさせながら」向かってくる。

男は恐怖のあまり叫びそうになったが、なぜかその時は「隣で寝てる娘が起きないように」と変なとこに気が回って、叫ぶことも逃げることもできないでいた。

そいつはどんどん車に近づいてきが、どうも車の脇を通り過ぎていくようだった。

通り過ぎる間も、
「テン…ソウ…メツ…」
という音がずっと聞こえていた。

やがて音が遠ざかっていき、後ろを振り返ってもそいつの姿は見えなくなっていた。

男はほっとして娘の方を向き直ると、そいつが助手席の窓の外にいた。近くで見たら、頭がないと思っていたのに胸のあたりに顔がついてる。

思い出したくもない恐ろしい顔でニタニタと笑ってる。

男は恐怖を通り越して、娘に近づかれたという怒りが沸き、「この野郎!!」と叫んでいた。

叫んだ途端、そいつは消えて、寝ていた娘が跳ね起きた。

自分の怒鳴り声にびっくりして起きたのかと思い、娘にあやまろうと思ったら、娘が
「はいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれた」
とブツブツ言っている。

男はヤバイと思い、何とかこの場を離れようとエンジンをダメ元でかけてみた。
…かかった!
急いで来た道を戻っていった。娘は隣ででまだつぶやいている。

早く人がいるところに行きたくて、車を飛ばした。ようやく街の明かりが見えてきて、少し安心した。
しかし娘のつぶやきが「はいれたはいれた」から「テン…ソウ…メツ…」にいつの間にか変わってて、顔も娘の顔じゃないみたいになっていた。

家に帰るにも娘がこんな状態じゃ、と思い、目についた寺に駆け込んだ。夜中だったが、住職が住んでると思われる寺の隣の住宅には明かりがついている。娘を引きずりながらチャイムを押した。

住職らしき人が出てきて娘を見るなり、男に向かって「何をやった!?」って言ってきた。

山に入って、変な奴を見たことを言うと、残念そうな顔をして、気休めにしかならないだろうが、と言いながらお経をあげて娘の肩と背中をバンバン叩き出した。

住職が泊まってけというので、娘が心配だったこともあり、その日は泊めてもらうことにしたのだった。


娘は「ヤマノケ」(住職はそう呼んでた)に憑かれたらしく、49日経ってもこの状態が続くなら一生このまま、正気に戻ることはないらしい。

住職はそうならないように、娘を預かって、何とか「ヤマノケ」を追い出す努力はしてみると言ってくれた。男の妻にも男と住職から電話して、なんとか信じてもらった。

住職が言うには、あのまま家に帰っていたら、妻にも「ヤマノケ」が憑いてしまっていただろうと言う。

「ヤマノケ」は女に憑くらしく、完全に「ヤマノケ」を抜くまでは、母親である妻ですら娘に会えないということだった。

一週間たったが、男の娘はまだ住職の所にいる。男は毎日様子を見に行っているが、もう娘じゃないみたいだった。ニタニタ笑って、なんともいえない目つきで男を見てくる。

…早くもとの娘に戻って欲しい。

遊び半分で山には行くな。
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