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双眼鏡

2018.02.28.Wed.21:10

男にはちょっと変な趣味があった。夜中になると家の屋上に出て、そこから双眼鏡で自分の住んでいる街を観察すること。

いつもとは違う、静まり返った街を観察するのが楽しかった。

遠くに見える大きな給水タンクや、酔っ払いを乗せて坂道を登っていくタクシー。ぽつんと佇むまぶしい自動販売機なんかを見ていると妙にワクワクしてくるのだった。

男の家の西側には長い坂道があって、それがまっすぐ男の家の方に向って下ってくる。



屋上から西側に目をやれば、その坂道の全体を正面から視界に納めることができるようになっていた。

その坂道の脇に設置されてる自動販売機を双眼鏡で見ていた時、坂道の一番上のほうから物凄い勢いで下ってくる奴がいた。

男は「なんだ?」と思って双眼鏡で見てみたら、全裸でガリガリに痩せた子供みたいな奴が満面の笑みを浮かべながらこっちに手を振りつつ、猛スピードで走ってくる。

奴は明らかにこっちの存在に気付いているし、男と目が合ったままだ。

男はちょっとの間、あっけに取られて呆然とそれを眺めていた。しかしなんだか凄くヤバイことになりそうな気がして、急いで階段を下りて家の中に逃げ込んだ。

ドアを閉めて、鍵をかけて「うわーどうしようどうしよう、なんだよあれ!」と怯えていた。
ズダダダダダダッと屋上への階段を上る音。
明らかに男を探してる。

「凄いヤバイことになっちゃったよ、どうしよう、まじで、なんだよあれ」

と心の中でつぶやきながら、声を潜めて物音を立てないように、リビングの真ん中で、アイロン(武器)を両手で握って構えてた。

しばらくしたら、今度は階段をズダダダダダダッと下りる音。

男がもうどうしようもないくらいガタガタ震えていたら、ドアをダンダンダンダンダンダン!!と叩いて、チャイムをピンポンピンポン!ピポポン!ピポン!!と鳴らしてくる。

「ウッ、ンーッ!ウッ、ンーッ!」という感じのうめき声も聴こえる。

心臓が一瞬止まったように思えた後、物凄い勢いで脈打ち始めた。 さらに震えながら息を潜めていると、ノックもチャイムもうめき声止んで、元の静かな状態に戻ったのだった。

それでも当然緊張が解けるわけがなく、陽が昇るまでアイロンを構えて硬直していた。

男は思った。
…あいつはいったい何者だったんだ。
…もう二度と夜中に双眼鏡なんか覗かない。

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