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エレベーター

2018.03.02.Fri.21:01

その年のKの夏休みはバイト漬けの毎日だった。夜は警備員のバイト、そのまま朝になったら新聞配達をして寝るという生活が続いていた。

ある日、Kが勤める警備会社の社員が「10分ほど行った所にあるビルなんだけど、異常があったようだから見回りしてくれない?バイト代に色付けるから」

と言ってきたので、Kは一緒にまわる友人Sと、二つ返事で承諾した。

異常があったのは5階建ての雑居ビルで、見るからに何か出そうな雰囲気だった。鍵を開けて中に入る。異常があったとされる1階は何もなかった。

一応、各フロアも回るように言われていたので、各階ごとに一人が見まわり、もう一人は非常口が見えるエレベーターホールで待っていよう、ということになった。

上から順番に、5階は友人Sが見まわり、4階はKが…という段取り。5階で友人Sが見回っている間、Kは非常口のドアノブを回してみたが、カギが掛かっていて開かなかった。

Sが「異常なし。こりゃもうけたな」っと笑ってホールに戻ってきた。

次は4階、Kが見回る番だ。階段が使えなかったのでエレベーターで4階へ。

見回りをしようと思ったその時、Kの携帯に会社から電話が入った。アンテナが1本しか立っておらず、出るとすぐに切れてしまった。表示は圏外。

友人Sはここで待ち、Kは外に出て電話をかけ直すことになり、何の気なしに非常口のノブをひねると、この階のドアは開いた。

電波がなかなか入らず、3階、2階と階段で降りていったが、どちらの階も非常口のドアは鍵が掛かっており、開かない。

Kが1階に着いたときに携帯がまた鳴った。表示を見ると会社からだ。急にアンテナが3本立ったので出ると、社員の人がなぜか友人Sの事をしきりに聞いてくる。

さっきから何度もSの携帯番号から会社に電話がかかってきているらしいのだが、出ると必ずザーっと言うノイズ音しか聞こえないため、何かあったのか心配になったのだという。

「いや、何もないです。Sの携帯の故障じゃないですか?」と笑いながらKが言うと、「何もないならいいんだ」と言って切れた。

Kは4階へ戻ろうとしたが、階段は疲れるのでエレベーターで行こうと非常口のドアノブを掴んだ。すると、ここも鍵がかかっていなかった。

中に入り、エレベーターの上ボタンを押すが、一向にエレベーターは4階から動かない。

Kは友人Sが悪戯をしているのだと思い、仕方なく階段で4階まで戻った。

しかし、友人Sはエレベーターホールにはいなかった。

エレベーターを見ると、1階で止まっている。
一応、4階を見回ったのだが、友人Sの姿は何処にもない。

先に3階を見に行ったのか?とエレベーターを呼び乗り込むと、友人Sの携帯がエレベーターの中に落ちていた。

(Sの奴、帰ったのか…?)
Kは仕方なく、一人で残り3フロアの見回りをした。
(終わった、疲れた、もう帰ろう――。)

しかしこのとき、重要な事を思い出した。
この場所には、会社の車をSが運転して来たのだ。Kに至ってはバイクの運転はできるが車は運転出来ない。

これでは帰れないじゃないか!と思って外に出ると、案の定、そこに車はなかった。

仕方なく、Kは歩いて会社へ戻ったのだった。

その日、友人SはKを置いて会社へ戻ると、そのまま仕事を辞めてしまったのだという。
会社の人はKに「もう帰っていいよ」と言った。

Kは何か釈然としなかったが、臨時収入をその場で渡され、「まぁいいか」と結局そのまま帰ることにした。

しかし、制服をしまうとき、ポケットの中に友人Sの携帯を見つけた。返すのを忘れていたのを思い出した。

忘れていたというより会えなかったというのが実際の所だが…。

Sは自宅に電話を引いてない。携帯がなくては大変だろうと思い、文句ついでに届けてやろうとKは新聞配達のバイト後に彼の自宅へ行った。

友人Sの家はボロアパートの二階だった。チャイムを押しても出てくる気配がない。何回も押すと近所迷惑だろうと思い、また夕方にでも来ようとKは家に帰って寝た。

しかし―。
ほどなくしてKは電子音で叩き起こされる。時計を見ると7:30。鳴っているのは友人Sの携帯だった。仕方なく出ると、電話相手はSの母親だった。

Sが家にいないと言うので、眠い目をこすりながらすぐにまたSのアパートに向った。チャイムを押すと、すぐに母親が出てきた。

ドアの隙間からチラッと見えた友人Sの部屋の中。

何か変な感じがした。大したことではないのだが、壁紙の柄が妙だな…という印象を受けたのだ。

Sの母親は「ここじゃなんだから」とKを部屋に入れ、ドアを閉めた。中に入った時、Kの顔は一瞬にして真っ青になった。

それは、その妙な柄の壁紙が…、壁紙だったのではなく、一面、血のまだら模様ができたいたからだ。

例えるなら、指から血が出た状態で壁紙をかきむしり続けたような痕。

Sの母親は「ペンキでも塗らないとダメね…」と雑巾でこすりながらつぶやいた。

Sの母親の話では、Sはあの仕事中、「人を殺してしまった」と母親に電話を入れ、途中で叫び声と共に電話が切れてしまったという。

その後、何度電話しても話し中だったため、父親と話し合って母親が始発電車で彼の家に向かったというのだ。

部屋の中に彼が居なかったため携帯へ電話をかけ、それをKがとったというわけだ。あいにくSの部屋の両隣は留守で、この部屋で何があったのかは分からないのだと言っていた。

そして先日。
なんと友人Sから電話があり、会うことになった。Sはまるで別人の様な顔つきになっていて、はっきり言って話をするまで本当にSなのか?と疑うほどだった。

実はその少し前に彼の母親から電話があり、「Sがあなたに何を言っても、すべて 『疲れていたせいだ。只の幻覚だ』と言ってくれ」と言われていたのだ。

その言葉に、Sは普通では考えられないような事を言うのだろうと覚悟は決めていた。

彼が語った話とは―。
あの日、4階でKが会社からの電話を受け、階段で下に向かったすぐあと、エレベーターが1階に降りていったのだという。

Sは、僕がダッシュで階段を下り、驚かせる為にエレベーターで上に上がって来るのだと思い、逆に驚かせてやるつもりになったそうだ。

そして、エレベーターの前で扉を背にして立っていた。エレベーターが開く音、誰かがゆっくりSに近づく気配がした。

しかしそのとき、非常口のドアが開く音がしたのだそうだ。

Sは(あれっ?)と思い、振り返ったが、その目には非常口が閉まったところしか見えなかった。
(まさか泥棒!?)そう思ったSは、急いで非常口のドアを開けた。次の瞬間、扉が激しく何かにぶつかった。

懐中電灯を当てると、そこには髪の長い女が倒れていた。

その女の体はうつぶせであるにもかかわらず、頭はほぼ上を向いていたという。

Sは怖くなってエレベーターに駆け込むと、その中から必死に母親に電話をしたそうだ。

「人を殺してしまった」と。

その時、スーっとエレベーターのドアが開いた。

そこには、頭がおかしな方向に曲がったさっきの女が這いつくばっていたというのだ。

エレベーターのドアは閉まる…が、女の腕に邪魔をされてまた戻る。それが何度か続いた。

そして次の瞬間、女は立ち上がり、曲がった頭をSの方へ向け、
「憶えたからね」
と言ったのだ。

Sは咄嗟に女を突き飛ばした。
そして(Kが1階でボタンを押していたため)エレベーターは1階に。そのままSは車に戻り、無我夢中で会社へ逃げたそうだ。

その場で会社を辞め、急いで家に帰ったのだが、部屋にいてもあの女がやってくるのでは…と言う恐怖が頭を離れず、部屋から逃げ出したという。鍵もかけずに…。

後になって下の住人から「朝までガタガタ何をやっていたの?」と言われたとき、あの女が来たのだと確信したのだそうだ。

その最後の話を聞いた瞬間、Kは背筋が凍った。なぜなら住人の話からすれば、Kが携帯を返そうとSの部屋に行ったとき、すでに部屋の中にはソレがいたということなのだ。

結論。
エレベーターは必ず前を向いて待とう。ドアはゆっくりと開けよう。人の家のドアはどんな状況でも開けるのはやめよう。

誰かの家の扉を開けたとき、ソレに当たらない保証が、あなたにはあるだろうか?


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