海釣り

2018.07.04.Wed.20:50

昔、趣味の一つである釣りによく行った時の話し。

海釣りと言っても沖の方に出るのではなく、磯や岩場で釣る方だ。

その日も朝早くから支度をして車で出かけた。
今回選んだ場所は、地元の釣り好きから穴場として知られる岩場で、良く釣れるということで知る人ぞ知るスポットだ。

その岩場はかなり高さがあって、海面まではほぼ垂直の岩肌が続いている。

岩肌は海面に触れたところから、スッと消えるように海の底まで伸びている。

ここからでは海底を見る事は出来ず、水深はかなり深いと思われる。

今日は平日ということもあって、人はほとんどいなかった。

調子が上がらずに今日は早めに引き上げようと思った。

午後、日が暮れる直前になり、そろそろ帰ろうかと思っていると、水面下に黒い大きな影が現れた。

はじめは日が暮れてきたので、何かの影だろうと思っていたが、どうやらイカか何かの大群である事に気づいた。

こんな所にイカの群れが来るのはおかしいな?と思いながら、なんとなく釣り糸をそちらの方へやってみた。

すると、数秒もしないうちに、すぐに食いついてきた。

驚く間もなく、急いでリールを巻くと、かなりの力で引っ張られた。

もしかしたら大物が紛れ込んでいたのかも知れないと思い、慎重にリールを巻いていく。

不規則な感覚でやけに強い力で引っ張られるので不思議に思った。

こんな感覚は初めてだ。

中々引き上げる事が出来ないので、まずは体力を奪おうと思い、竿を岩の間に固定することにした。

様子を見るために、そのイカの群れの方を近くで覗いてみる。





それはイカではなかった。





良く見ると、無数の人の手が糸にしがみつき、必死に水面へ上がって来ようとしていた。

その光景はまるで、地獄から這い上がろうとする沢山の怨霊が、天から垂らされた糸を奪い合っているような状態だった。

ふと気付くと、全身を使って糸にしがみつき、こちらを睨み付ける男と目が合った。

身動きが取れずに、ただ絶句していると、苦しそうな顔、悔しそうな顔、怒りに満ち溢れたいくつもの顔がこちらを見ていた。





と、その時。





バキッ!という大きな音を立てて、岩に固定していた竿がはずれ、その反動で海へ落ちていった。

落ちた竿は一瞬で海に飲み込まれて見えなくなった。





あの霊は登って来ようとしていたのではなく、海に引きずりこもうとしていたのだ。





後で知ったことだが、その崖は、自殺の名所として有名な場所だったらしい。

それから、二度と岩場には近づいていない。



関連記事
コメント

管理者のみに表示
« 暗い部屋 | HOME | 開けて »