ガサガサ

2016.09.15.Thu.22:34

俺が高2のとき、婆ちゃんが死んだ。

脳溢血っていうので一回倒れて、そのまま病院から帰ってこなかった。

お通夜では俺が別れの言葉を言わせてもらったんだけど、

せっかく寝ないで考えた原稿も、しゃくりあげて結局上手く言えなかったのが、凄い心残りだった。

それで、その日の夜は、俺の親父が蝋燭番(?)をしなきゃいけない日だったんだけど、

親父は次の日の準備とか、病院の片付けとかをやらなきゃいけなかったらしくて、

親戚もそこまで気が回らなかったのか代役を立てずに、蝋燭番なしでその夜を過ごしたんだ。

でもまぁ実際、蝋燭の火が消えるか消えないかでそんな大事にはならないし、

夜通し起きている人もいるので、火事の心配はないだろうと言うことだった。

次の日、その日は葬式だったから朝から大忙しだった。

母ちゃんとか女の人たちはみんなで料理を作ってるし、俺は親戚の子供をまとめて監視する役だった。

葬儀事態は何の滞りもなく終わって、参列者の方たちに帰ってもらったあとは、みんなで飯を食った。

でも俺だけはどうしても食欲がなくて、家族たちが居間で夕食をとっている間、

ずっと婆ちゃんの棺桶の横で泣いてた。

寝てるみたいに見えたのに、触ってみたら凄い冷たかった。

そりゃそうだ。ドライアイスで冷やしてんだもんね。あれ。

結局その日は飯を食わないで、そのまま仏間に一番近い部屋で一人で寝た。

婆ちゃんの家は古いけど大きな家で、家の前には小さいけれど紅葉とか松とかが生えてる庭もあった。

俺はその部屋で縁側を頭の方にして眠ることにした。

とは言っても結局俺は寝つけずに、

何度も寝返りを打っているうちに夜も過ぎて、柱時計が3回音を立てて鳴った。

寝よう、寝なきゃ。そう思って無理に目を閉じると、なんだか変な音がする気がした。

はじめは気のせいかと思ったが、音はだんだん大きくなっていった。足音だった。

窓の外で砂利がざくざく踏みしめられる音がして、

それがずっと頭の上のほうを右から左へ、行ったり来たりしてる。

その内「ちりんちりん」とか、小さい鈴を転がすみたいな音もしてきて、

俺は『ああ、婆ちゃんが最後に会いに来てくれたんだ』って思った。

俺は親族中の誰よりも婆ちゃん子だったし、病院にもしょっちゅう会いに行ってた。

でも、「彼女出来たか?」とか、「勉強どうだ?」とか、「友達とうまくやってるのか?」とか、

色々心配されても、病気で寝てる婆ちゃんを心配させたくなかったから、俺は嘘を付いてごまかしてた。

彼女なんて出来たこともないのに、女友達とデートに行ったとか、友達と釣りに行ったとか。

そしたら婆ちゃん、おんなじ病室のじじいとかばばあにすごい嬉しそうに話すの。

「孫にもついに彼女が出来た。きっと美人だ。

孫は小さいころから気が小さかったけど、優しい子だったから」って。

婆ちゃんは俺の嘘がほんとかどうか分かる前に、そのまま病院で死んじゃったから、

婆ちゃんの中で、俺がどうしようもない孫にならなくて良かったってのと、

結局最後まで本当の事は言えなかったっていう罪悪感で、なんだか複雑な感じだった。

そんな俺を、婆ちゃんは死んでからもまだ心配で、

こうやってお別れを言いに来てくれたのかなって思うと、

なんだか嬉しくて情けなくて、俺は布団を被って婆ちゃんにばれないようにまた泣いた。

すると、窓の外のざくざくが止まった。鈴の音も。

俺は婆ちゃんが天国に行ったのかと思って、

布団から顔を上げようとした瞬間、耳のすぐそばでちりんと鈴がなった。

婆ちゃんは、しばらくすり足で俺の枕の上をうろうろしていた。

俺にどうしても言いたいことがあったんだろうか。

だったら俺も言いたかった。騙してごめんって。でももう心配しなくていいって。

俺はもう大丈夫だよって、最後に安心させてあげたかった。

だからそのまま布団の中で、「婆ちゃん…」て、婆ちゃんごめんなって言おうとした。

声を出した瞬間、婆ちゃんが布団に手を突っ込んで、すごい力で俺の髪をわし掴みにした。

そいつは、無理やり俺の頭を外に引きずり出そうと引っ張ってきて、

必死で両手で布団にしがみ付くと、髪がぶちぶち音を立てて抜けてった。

あ、こいつ婆ちゃんじゃねぇなって思った時には、もう怖くて声なんかでなくなった。

怖すぎて、引きずり出されたら死ぬと思った。

怖くてずっと目を瞑ってたんだけど、上に被ってた布団が

「ばさ」って転げたのにびびって目を開けてしまった。

やけに肌のがさがさした、全身かさぶたかうろこみたいな人間が、俺の顔を覗き込んでた。

心臓が止まるかと思って、俺は絶叫したつもりだったんだけど、上手く息が出来なくて、

「あっが、がふぁっ…」って訳の分からない声を出して、

めちゃめちゃに腕を振り回して婆ちゃんの仏間に逃げた。

そのまま朝まで、婆ちゃんの棺桶と壁との隙間に入って、ずっと開けっ放しにした襖を見てた。

いつさっきのが入ってくるか分からなくて、死ぬほど怖かった。もしかして寝てたのかもしれない。

朝になって母ちゃんが起きてくる音がしたんで、部屋に戻って見たらそいつはいなかった。

正直夢かもしれないって、自分でも思ってた。

ここでも気がついたら朝だった~系は、全部夢だって言われてんの見たことあるし。

でもそうじゃなかったんだよ。

火葬が終わって、墓入れとか納骨が済んだあと、

暫くしてから婆ちゃんの仏壇拝みに行ったらなんかいるんだよね。

俺今まで生きてきて、お化けとか幽霊とかそんなの一切見たことないし、気配すら感じた事がなかったから、

あのがさがさ野郎が一体何なのかわかんないんだけどさ、

そいつ婆ちゃんの仏壇の横、俺がそいつから逃げたときにいた場所に、

俺の真似するみたいにして、全く同じ格好で座ってた。

相変わらずがさがさの皮膚。目とか鼻とか口とかもよくわかんない。脱皮直前の蛇みたいなうろこ人間。

気持ち悪かった。そいつはなんにもしないで(多分)ずっとこっちを見てるし。

母ちゃんなんて、普通にそいつの隣で仏壇拝んでるし。

婆ちゃんなんていないんだよね。うちの仏壇にいるのはがさがさだけ。

俺怖くて、結局仏壇拝めなかったよ。

これって、俺が婆ちゃん死んだショックで頭がおかしくなっちゃったのかな?

どうせおかしくなるなら、俺は婆ちゃんの幽霊が見たかったよ。

しかし、こんな事家族に言っても信じてもらえないしさぁ。

うちはとんでもないもの仏壇に囲っちゃったよ。

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