首刈り地蔵

2016.09.27.Tue.11:17

小学生の頃、両親が離婚し、俺は母親に引き取られ、母の実家へ引っ越すことになった。

母の実家は東北地方のある町でかなり寂れている。 

家もまばらで、町にお店は小さいスーパーが一軒、コンビニもどきが一軒あるだけ。

その町の小学校へ通うことになったが、全学年で20人弱、同級生は自分を含めて4人しかいなかった。 

越してきて1年半ほど経ったある日、一学年上の子にいじめられるようになった。

原因はなんだったか思い出せない。まぁたいしたことじゃないと思う。

とにかくその子のことが大嫌いで、いなくなって欲しかった。

その時、首刈り地蔵のことを思い出した。 

首刈り地蔵のことは、越してきたときに、じいちゃんに教えてもらった。 

小さな公園の奥の林の中にある、首のない3体のお地蔵様。 

「絶対にお供え物をしてはいけない」と言われた。 

理由は教えてくれなかったが、越してきてしばらくして同級生に教えてもらった。

このお地蔵さまにお供え物をして、「○○を殺してください」とお願いすると、その相手を殺すことができる。

首刈り地蔵にお願いしよう。そう思った。 

週1回のお弁当の日。おにぎり2つを食べないで我慢して、学校の帰りに首刈り地蔵にお供えし、お願いした。

その日の夜、寝ていると足音が聞こえた。ガチャ、ガチャと鎧を着て歩いているような音。

「足りない」

そう聞こえた。ああ、そうか。お地蔵様は3体だった。おにぎりがひとつ足りなかったか。 

翌朝、おにぎりを一つ持って登校した。

登校途中にある首刈り地蔵のもとへ行くと、2つのおにぎりはそのままある。

持ってきたおにぎりをお供えしようとすると、

「こんのクソガキが!なにやってんだ。」と怒鳴り声が聞こえる。

後ろから顔見知りのおじさんが走ってきて、おもいっきり殴られた。 

引きずるように自分の家に連れて行かれ、じいちゃん、ばあちゃんに怒鳴り声でなにか言い帰っていった。

夕方になるとたくさんの大人が家へやって来た。じいちゃん、ばあちゃんはとにかく謝っている。 

東北弁がきつく何を言ってるかわからなかったが、俺も一緒になって謝った。

とにかく大変なことになってしまったらしい。 

何日か話し合いがされ、うちは村八分ということになった。 

首刈り地蔵にお供え物をした一家は村八分。昔からそうらしい。 

実際、村八分がどういうものか知らないけど、それ以上だったかもしれない。

うちの人間とは一切会話が禁止され、スーパー・コンビニで何も売ってもらえなくなり、

母は町の病院で看護師をしていたが解雇され、俺は学校に通わせてもらえなくなった。

母と一緒に町役場に抗議しに行ったが、話を聞いてもらえない。 

どうにもならない。ここではとても生きていけない。 

東京にでも引っ越そうと話したが、じいちゃん、ばあちゃんはここを離れたくないという。

生まれてからずっとこの町で過ごしてきた。死ぬ時もこの町で死にたいと。

自分たちは大丈夫だから二人で東京へ行きなさいと。

母はかなり心配していたが、ここにいては俺は学校へ通えないし母も働くところがない。

生活がまともに出来ない。 

母と俺は東京へ引っ越すことにした。 

実家にはまめに電話をし、食品など荷物を送っていたが、

しばらくして、電話線を切られたらしく電話が通じなくなった。 

町に買い物に出たときに公衆電話でこっちにかけてくる以外は、手紙が連絡手段になってしまった。

帰省した時電話線を直そうといったが、じいちゃん達はこのままでいいという。

たぶん他にも何かされていたと思うけど、

何かすべてをあきらめているというか、受け入れているというか、そんな感じだった。 

それから何年か経ち、俺は高校に入学した。

高校生になっても、あの町のことが頭にあった。

とんでもないことをしてしまったとか、じいちゃん達に悪いことをしたとかいう理由ではなく、

あれ以来、あの足音と声が未だに聞こえるからだ。

別になにか起こるわけじゃない。ただ聞こえるだけ。

それでもやはり不気味でいい気分じゃない。 

ある日、運送会社から電話がかかってきた。

実家に荷物を送ったが、何度行っても留守だと。

嫌な予感がした。というよりも、半分ぐらいそうなんじゃないかと思っていた。

何かあれば電話をしてくるはずなのに、何度行っても留守。

すぐに実家に行くことになった。 

家についたのは夜遅くなのに、家に明かりはない。玄関を叩くが応答がない。

玄関は引き戸で簡単に外すことができる。ドアを外し、一歩家に足を踏み入れた瞬間に確信した。

ものすごい腐臭がする。母を見ると少し嗚咽を漏らし震えていた。 

中に入り明かりをつける。どこだろう。寝室かな?玄関を入り右へ進んだ突き当たりが寝室だ。 

寝室へ行く途中の左の部屋のふすまが開いていた。仏間だ。

ちらっと見ると、ばあちゃんが浮いていた。首を吊っている。

じいちゃんは同じ部屋で、布団の中で死んでいた。

母は子供のように泣いた。 

とりあえず外に出ようと言っても動こうとしない。

警察を呼ぼうとしたが、まだ携帯が普及し始めた頃でそこは圏外だったので、最寄りの交番まで歩いて行った。

じいちゃんは病死、ばあちゃんは自殺と警察から説明された。

じいちゃんの後を追ってばあちゃんが自殺をした。そういうことらしい。 

葬儀はしないこととし、お坊さんを霊安室に呼んでお経を上げてもらい火葬した。 

家に帰る日、写真などを持って帰りたいから、実家によってから帰ることにした。

財産はこの家以外に何もないから、相続しないらしい。 

この町に来るのはこれで最後。

母がいろいろやっている間、俺はなつかしい道を歩いた。学校へ登校する道。

公園でブランコに乗りながら考えた。

どうしようか。もうこの町と一片の関わりも持ちたくない。

このまま帰ったほうがいいか。でもあの足音と声がある。

そうすることこそが、この町との関わりをなくすことなんじゃないかと思った。 

林の中へ入り、首刈り地蔵へ持ってきたおにぎりをひとつお供えした。 

何を願おう。誰を。すぐに思いつく名前はなかった。俺は誰を殺したいんだろう・・・ 

この町の人間全員を殺してください。そう願った。 

公園の方を向くと、5、6人の人がこっちを見ていた。

見知った顔もある。向こうも俺が誰だかすぐに分かったと思う。 

俺が近づいていくと目を逸らし、誰も何も言ってこなかった。

俺も何も言わず無言ですれ違った。 

足音と声は聞こえなくなった。 

あの町の人達がどうなったのかはわからない。 

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