水の音

2016.11.19.Sat.17:03

大学1年の夏の始めごろ、当時俺の部屋にはクーラーはおろか扇風機もなくて毎日が地獄だった。

そんな熱帯夜にある日電話が掛かった来た。

夜中の一時くらいで、誰だこんな時間に!と切れ気味で電話に出た。

すると電話口からはゴボゴボゴボ・・・という水のような音がする。

水の中で無理やりしゃべっているような感じだ。

混線かなにかで声が変になっているのかと思ったが、

喋っているにしては間が開きすぎているような気がする。

活字にしにくいが、あえて書くなら、

ゴボゴボ・・・ゴボ・・・シュー・・・・ゴボ・・・・シュー・・・シュー・・・ゴボ・・・・ゴボリ・・・

いつもならゾーっするところだが、その時は暑さでイライラしていて頭から湯気が出ていたので

「うるせーな。誰じゃいコラ」

と言ってしまった。

それでも電話は続き、ゴボゴボと気泡のような音が定期的に聞こえた。

俺も意地になって、

「だれだだれだだれだだれだ」

と繰り返していたが

10分ぐらい立っても一向に切れる気配がないので、

いいかげん馬鹿らしくなってこっちからぶち切った。

それから3ヶ月くらいたって、

そんなことをすっかり忘れていたころに留守電に

あのゴボゴボゴボという音が入っていた。

録音時間いっぱいに

ゴボ・・・ゴボ・・・・シュー・・・・ゴボ・・・・

気味が悪かったので消そうかと思ったが、

なんとなく友人たちの意見を聞きたくて残していた。

それで3日くらいしてサークルの先輩が遊びに来ると言うので、

そのゴボゴボ以外の留守録を全部消して待っていた。

先輩は入ってくるなり、

「スマン、このコーヒー飲んで」

自販機の缶コーヒーを買ってくるつもりが、

なぜか『あったか~い』の方を間違えて買ってしまったらしい。

まだ九月で残暑もきついころだ。

しかし例の留守電を聞かせると、

先輩はホットコーヒーを握り締めてフーフー言いながら飲みはじめた。

先輩は異様に霊感が強く、俺が師匠と仰ぐ人なのだがその人がガタガタ震えている。

「もう一回まわしましょうか?」

と俺が電話に近づこうとすると「やめろ!」とすごまれた。

「これ、水の音に聞こえるのか?」

青い顔をしてそう聞かれた。

「え?何か聞こえるんですか?」

「生霊だ。まとも聞いてると寿命縮むよ」

「今も来てる。首が」

俺には心当たりがあった。

当時俺はある女性からストーキングまがいのことをされていて

相手にしないでいるとよく睡眠薬を飲んで死ぬ、みたいなこを言われていた。

「顔が見えるんですか?女じゃないですか?」

「そう。でも顔だけじゃない、首も。窓から首が伸びてる」

俺はぞっとした。

生霊は寝ている間本人も知らない内に首がのびて、

愛憎募る相手の元へやってくると聞いたことがあった。

「な、なんとかしてください」

俺が泣きつくと先輩は逃げ出しそうな引き腰でそわそわしながら

「とにかくあの電話は掛かってきてももう絶対に聞くな。

本人が起きてる時にちゃんと話しあうしかない」

そこまで言って天井あたりを見あげ、目を見張った。

「しかもただの眠りじゃない。これは・・・へたしたらこのまま死ぬぞ。

見ろよ、首がちぎれそうだ」

俺には見えない。

引きとめたが先輩は帰ってしまったので、俺は泣く泣くストーキング女の家に向った。

以降のことはオカルトから逸脱するし、話したくないので割愛するが、

結局俺はそれから丸二年ほどその女につきまとわれた。

正直ゴボゴボ電話より、睡眠薬自殺未遂の実況中継された時の電話ほうが怖かった。

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