合わせ鏡

2016.12.19.Mon.21:07

夜の12時、合わせ鏡をやると悪魔を呼ぶと言われている。

私は、この世と霊界の合わせ鏡をやってしまったんじゃないか、と思うことがある。

5歳の頃だった。悪夢を見た。そのあまりの恐怖に目が覚めた。

薄明かりの中、天井に吊された電球が見えた。

そして子供ながらに、それが夢であることにホッとして一息ついた。

その時には、どんな夢だったか忘れてしまっていた。

ただ、酷く恐ろしい夢だったという記憶しかなかった。

気が付くと、足元で何かがゴソゴソしている。

下目使いに目をやると、何かが動いているのが分かった。

ん?と思い、私は上半身を起こした。

今考えると、何者かの力で「引き起こされた」という方が正しいかもしれない。

そして、アイツが居た。

これから数十年に渡り戦い続けねばならない、悪魔のアイツが。

私はそいつと、眼前30センチほどで鉢合わせしてしまった。

身体を起こした私の前に、それは居たのだ。

年の頃は、私と同じくらいの子供である。

髪の毛がボウボウと伸び放題で、目だけが異様に光る奴だ。昔の絵巻物に登場する施餓鬼の印象だった。

といっても、5歳当時の私に施餓鬼など知る由もない。大人になってから印象が似ていると思ったわけだが。

服までは覚えてない。

ただ、手に持っていたものは、今でもしっかり覚えている。

鎌である。

草刈りに使う鎌を右手に握り、上目遣いに私をにらみつけていたのだ。

私は恐怖の余り、足を投げ出した恰好で固まってしまった。

こんな恰好で金縛りもないだろうが、身動きがとれないのだ。

そいつは、私が動けないのを知ると、手に持っている鎌を誇らしげに振りかざした。

「ヒヒヒヒヒっ」と妙に甲高い声で笑うと、そいつは私の投げ出している足をめがけ、鎌を振り下ろした。

スパッと私の足は、膝から下が切り取られた形になった。

血は出てないが切り口から赤い身が見える。でも、不思議と痛みはない。

悲鳴を上げようにも声が出ない。

そいつは、再び鎌を振り下ろした。

もう片足も膝の辺りでスパッと切り離される。

どうすることも出来ない私に、そいつは身を乗り出してきた。今度は腕を切り始めたのだ。

私はついに、ダルマのように四肢を無くしてしまった。

その時、私は目が覚めた。

そう。夢だったのだ。あの醜い餓鬼のような妖怪は夢だったのだ。

今度こそ、いつも見慣れた天井が見えた。

ふと、足元で動くものがある。あれ?変だなと思って身を起こすと。

居た。居たのである。あいつが。

夢の世界から抜け出て、今私の前にいる。

手に鎌を持ち、夢と同じ様に私をにらみつけているのだ。

再び私は身体が硬直し、またあいつが鎌で私の四肢を切り取る。ヒヒヒヒッと笑いながら。

うわっ。なんだこれは!夢じゃないのか。

再び私は目が覚めた。

私は怖々足元を覗いてみた。

今度こそ大丈夫・・・・だろう。

いや、違った。やはり居た。あいつが居た。手に鎌を持って。

そしてさっきと同様、私の四肢を切り取る。

まるで私が怖がっているのが、楽しくて仕方がないような様子で。

そしてまた目が覚めた。

またまたあいつがいる。

そしてまた、私の手足を切り取る。

いったいどこまで続くのか?底なし沼の夢の中。

夢から覚め、妖怪と出くわし、手足を切られ、夢から覚める。

それを何度も繰り返した。

まるで、夢の中に何層も夢が内包されているような、何段も重なった夢。

私はそこから抜け出せなくなっていた。

いつしか私は諦めともつかぬ気持ちに襲われ、眠りに落ちた。

失神したという方が正解かもしれないが・・・。

その悪夢は、一日で終わらなかった。

ある時、ふと目が覚めた。

足は大丈夫だろうか?またあいつがいるんじゃないのか?

そっと手を伸ばして足に触ってみる。太股は・・・あった。

身体を丸くしてもう少し下を探ってみる。膝頭は・・・あった。

ホッと一息。

じゃあ、膝下は・・・ない。

そこから先は、私の手が空中を泳いでいる。

え?まさか!

ガバッと起きた私の目の前には、やはりあいつがいた。

目を覚ます前に、私の足は切り取られていたのだ。

ヒヒヒヒヒっ。残忍な愉悦に満ちたその笑い声を聞きながら、私は気が遠くなっていた。

次の日も、また次の日も、一週間ほど悪夢は続いた。

同じ夢、同じ内容、まるで私に念を押すように何度も何度も。

私は眠るのが怖くなった。夜中目を覚ますのが怖くなった。

ふと目を覚ますと、あいつがいつものように足元でモゾモゾしてるんじゃないのか。

その恐怖に、夜目が覚めても自分の足元を見ることが出来なかった。触って確認するのも怖かった。

そのまま目をつぶり、必死に眠りに就こうと努力した。それが唯一の手段だったからだ。

しかし、忘れようとしても、忘れることのできない悪夢となってしまった。

5歳児の私には、それは恐怖以外の何物でもなく、案の定それ以来トラウマになってしまった。

眠りに就くのが怖いと思うようになったのだ。今では慢性的な不眠症に苦しんでいる。

それだけではない。いつか事故に遭遇し身体障害者になるんじゃないかと、不安に襲われることもあった。

あの邪鬼が持つ鎌、それは死神を意味するものかもしれない。

私の周囲に不吉なこと不運なことが生じると、黒い影の存在を感じることもあった。

何者かに見張られている。

私の心の奥底まで見通し、虎視眈々と私を付け狙っている黒い影の存在。

少しでも隙を見せると、たちどころに心を蹂躙しようと。

その黒い影は、時として生きてる人間に憑依し、残忍冷酷な人間に豹変させ、私をいたぶろうとしている。

そんな疑心暗鬼にもなった。

自分以外の人間が信用できない。いつ自分に害をなす人間となるか分からないからだ。

必要以上の緊張感を強いられ、子供でありながら、大人並みの緊張感を要求されたのだ。

自分の半生を振り返ると、強引かつ理不尽な不幸現象に見舞われてきた。

物事が自分の意に染まぬ方向へ、そうあって欲しくないと思う方向へ、必ずと言って良いほど運命が動く。

それは、私の精神が疲弊し崩壊するのを目的としているかのようだった。

あきらかに、何者かの意志が働いているとしか思えない。

夢に見た邪鬼が、黒い影となり私の廻りを徘徊し、人を介して間接攻撃に始まり、

私が注意力が散漫になると、それを見計らって直接攻撃に及ぶ。

精神を締め付ける、喩えようもない閉塞感に襲われるのだ。

その意識圧からは、悪意すら読みとれることもあった。

時おり、自分が旧約聖書に登場する、ヨブのように思えることもある。

幾重にも重なった夢の世界。恐怖の中に恐怖が織り込まれ、それが恐怖の多重世界を形成する。

それは合わせ鏡の世界に似ていた。鏡の世界にもう一つの世界。その中にもまた鏡の世界。

それが無限に続いている。私が見た悪夢は、まさにそれだった。

そして、言い伝え通り、合わせ鏡から悪魔を呼び出してしまったのか?

それが、あの邪鬼とも妖怪ともつかない奴なのか。

私は時々思う。今現実と思っているこの世界が、実は夢の続きではないのか、と。

私は未だ覚めやらぬ多重構造の夢から抜け出せず、そこで囚われの身になっているんじゃないのか。

邯鄲の夢の言葉もあるように、ふと目覚めると、5歳児の私のままではないのか・・・と。

何層にも重なった夢の話は、以前も出ていたように記憶している。

これだけなら、夢判断のスレにでも行けと言われそうだが、この話には後日談がある。

それはいずれまた話そう。

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