火事現場のお婆さん

2016.12.30.Fri.21:50

もう15年も前の話。

当時俺は小田急線の経堂に住んでてさ、夜中に城山通り沿いのコンビニに、夜食を買いに行った。

自転車で城山通りを走ってて、コンビニの近くのバイク屋の前を通りかかった時、

なんか焦げ臭い匂いがして止まったんだ。

バイク屋はシャッターが閉まってて、中で誰か作業でもしてんのかなと思ったけど、

気になったんで建物の横にいってみた。

そしたら、そのバイク屋の2階の窓が開いてて、そこから薄っすらと煙が出てる。

2階は電気もついてなく真っ暗で、もしかして火事?と思って見上げてた。

そしたらその窓から、白い下着?かワンピースみたいな服を着たお婆さんが顔を出した。

俺は真下にいたんで、思いっきり目があっちゃった。

もし火事とかだったら、その段階で何か言ってくるだろ?助けて、とか。

でもお婆さんは、何も言わず俺の顔を見てる。

あまりにも普通なんで、何か気まずくなって、小さな声で「大丈夫ですか?」って聞いたら、

余計なお世話だ、って感じで、何も言わずにすーっと窓を閉められちゃった。

こりゃ、サンマでも焼いてたかな?なんて思って、もう行こうとしたんだけど、

どうも気になっちゃって立ち去れずにいたら、都合よく道の反対側を自転車のおまわりさんが通りかかった。

俺はおまわりさんを呼んで、「何かこの家変ですよ」って言って、二人でバイク屋の裏側に回ってみた。

裏に回ってみると、バイク屋の2階は住居になってて、そこのドアの隙間から明らかに異常な量の煙が出てた。

俺は慌てて、おまわりさんに「中にお婆さんがいます!」って言ったら、おまわりさん、ドアを体当たりで開けちゃった。

その瞬間、ものすごい量の煙が噴出してきて、俺はギブアップ。

おまわりさんは何とか中に入って、お婆さんを助けようとしてた。

そこはアパート密集地帯だったんで、俺はとにかく大声を出しながら、裏の部屋の扉を叩きまくった。

そしてまわりの住民と、今思えば笑っちゃうけどバケツリレー。

そんなもんで消えるはずもなく、火はどんどん広がっていって、

俺はもう完全にお婆さんのことはあきらめてて、「もう危ないからみんな避難した方がいいよ」なんて言ってた。

そしたら、やっぱりおまわりさんはすごいもんで、とうとう燃える家の中から真っ黒な顔をして担ぎだしてきた。

俺達も手を貸して安全なところに横たわらせて、よく見たらそれはお爺さんだった。着てるものも全然違う。

ありゃーと思って見上げたけど、どう考えてももうお婆さんの救出は不可能。

やっと消防車が駆けつけて消火を始めた時には、2階は火の海だった。

その後、お爺さんは一命を取りとめたらしい。

お爺さんはバイク屋とは無関係で、2階を借りてただけ。

家賃もかなり滞納してたようで、自殺?って可能性が高いみたいな話を聞いた。

俺はその後第一発見者ってことで、消防から賞状をもらった。

ところでお婆さんなんだけど、そんな人いないんだって。

お爺さんはずっと一人暮らしだったらしい。

警察も消防も、お爺さんと見間違ったんでしょって、さらっと流しやがった。

見間違いのはずないんだけど。

だって助け出されたじいさんはハゲ頭だったけど、俺はばあさんの髪型まで覚えてるし、

何よりも、俺の目の前で窓を閉めやがったんだぜ。

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