お札の家

2017.01.04.Wed.21:25

広島県F市某町、地元の人間なら誰もが知る有名なスポットがある。

『お札の家』と呼ばれたその場所には、名前通り無数のお札が貼られた家がある。

他の噂ばかりのスポットとは違い、ソコを訪れた大学の友人は、ほぼ全員が不思議な体験をしたという。

普段霊感のない人にも見えるらしい。

友人の話。

「家の周りだけ、不自然に濃い霧が覆っとったんよ。

 んで、冗談半分で霧に塩投げたら、いきなりブワッと霧が裂けたんじゃーw

 流石にヤバ過ぎる思って逃げたったw」

どうやら異様な数の霊が集まってくる場所で、

見える人によれば、お札に阻まれ家に入れない霊がウヨウヨいる、とのコト。 

上の友人のコメントは印象強くて、今でも忘れられない。

『霊感が無くても見えた』

霊感の無い自分にとっては、いつか行きたい魅力的なスポットだった。 

ふとした日、ファミレスでの食事中にお札の家の話を切り出した。 

居合わせた仲の良い先輩と、その彼女、友人Sはヤケにノリ気。「今すぐ行こう」となった。

元々地元の先輩と彼女は、高校時代に行ったことがあるらしかったが、恐くて車を降りれなかったらしい。

他県からきていたSは特にノリ気だった。

話を出した後で少し恐くなり後悔したが、遅かった。 

自分「いや、ホンマにヤバいらしいで?

 ソコ行って一週間寝込んだヤツとか、帰り事故ったヤツとか、普通におるらしいで?」 

S「今さら何ビッっとんw

 俺霊感あるし、子供の頃から普通に霊とか見ようたし、その気になりゃ霊にもキャン言わしちゃるけぇねw」

自分は内心、コイツ馬鹿だなーと思っていたが、

「本当に危ない霊がいたらすぐに教える」「お前を先に逃がす」と言われ、

普段から怖いもの知らずで気が強いSが同伴するということもあり、

お札の家に行くコトを承諾してしまった。 

時間は大体23時を回ったくらい。

心霊スポットに来るには早い時間だったが、お札の家に続く林道は重々しく、暗いってだけで雰囲気があった。

車から降り、「うっわ、やっぱヤメといた方がエエんと違うーっ!?w」等とハシャイでいたが、

先輩カップルが車から降りて来ない。

自分「どぉしたんすかー?w」 

先輩「R(彼女)が気分悪いから無理やって。俺も残るわ」 

S「えぇー!せっかく来たんすから、見るだけ見に行きましょうよー!」 

先輩「いやいやホンマにえぇわ。お前ら二人で行ってき」 

S「何ビッてんすかw霊なら俺に任しといてくださいよー!」 

先輩「うるしゃーわお前!!Rが気分悪い言うとろうが!!調子に乗んな!!」 

半分喧嘩になりかけたので慌てて止めに入り、渋々二人きりで行くことになった。

S「あーもー何なん!?」 

自分「てか、お前先輩に態度デカ過ぎ」 

S「戻ったら思いっきり窓ガラス叩いて、脅かしちゃろうでw」 

自分「…」 

呆れて言葉も無かったが、急に視界に飛込んできたバリケードに驚き、立ち止まってしまった。 

S「…こっからが本番っちゅうコトかw」 

『ここから先○○市保有地区により立入り禁止』

有刺鉄線まで使われた、厳重なバリケードだった。

乗り越えることができなかったので、

一度林に逸れて、の有刺鉄線が途切れた所で乗り越え、また道に戻り先に進んでいった。 

今考えると、あのバリケードを越えた瞬間、急に寒くなった気もするし、そんなコトは無かった様な気もする。 

とにかく空気が変わった、ってコトは自分にもわかった。

緊張してしまい、無言で歩く自分。

裏腹にSはやたらキョロキョロし、

「あっソコにおるなー。おぉ!アッチにもおるで~」

相変わらずのハシャギ様だった。 

所で、『お札の家にはダミーがある』というコトを前々から聞いていた。 

学校の友人。

「あんなー。林道を進むと、まず一件の白い家にぶつかるんじゃ。

 でも、その家は放置されたホンマに普通の民家じゃけ、 

 その家の横に登坂になった獣道があるけぇ、ソコを登らんとお札の家には辿り着けんよ?

 タマに、その普通の民家をお札の家と勘違いして、そのまま帰ってくるヤツとかおるけぇのーw」 

そして、そのダミーの家は本当にあった。

Sにダミーの家の話はしてあったので、二人とも落ち着いて家の横の獣道を目指した。 

そこでSが、「ちょぉ待って、煙草に火ィ着けるけぇ」と立ち止まった。 

なかなか火が着かない。

ボーッと白い家を眺めていた自分は、「ココも中々雰囲気あるなぁ」と白い家に近づいた。 

なぜかその普通の民家も、周りをチェーンで仕切られていた。 

特に何も感じずチェーンをくぐろうとすると、

「Mっ!!(自分の名前)」 

Sに呼び止められた。 

驚いて振り向くと、Sが煙草をくわえたまま目を見開いてコッチを見ている。 

何事かワケが分からず動けないでいた自分だが、Sの視線が自分では無く、自分の背後に向けられいる。

と気づいた時、全身に鳥肌が立った。 

背筋が凍るように冷たくなったのは、生まれて初めてのコトだった。 

すぐにSに向かって走り出したいが、どうにも足が動かない。完全にパニックになっていた。 

それを察してかは知らないが、突然Sが「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」と馬鹿デカい雄叫びを上げ、

もと来た道へ走りだした。

その大声に助けられ、自分も我に帰って全力で駆け出した。

林道がやけに長く感じ、絶望的な恐怖感があったが、

『後ろを振り返ってはいけない』って、まさに今のこういう状況のコトを言うのだろうな。

という考えが、頭をよぎったのを覚えている。 

ようやく林道を抜け一般道に飛び出し、凄い勢いで車に乗り込んだ。 

車に乗り込むと、ただならぬ様子を察知した先輩が聞いてきた。

先輩「どうしたんなお前ら!?何があった!!」

自分はガタガタ震えが止まらず、まともに答えるコトができない。

「とにかく早く車出してください…お願いします…すんません…お願いします…」

その場所から離れたい一心で、それしか言えなかった。 

怯え方が尋常ではなかったので、先輩もからかったりせず車を急発信させた。 

しばらく無言のドライブが続き、先輩の彼女のすすり泣く声が聞こえるだけだった。 

不意に背中を、強くバン!バン!と叩かれた。驚いて横を見ると、満面の笑みを浮かべたSの顔があった。 

S「楽しんでもらえた?w」 

その一言で全てを理解した。 

正直Sを殴り倒したかったが、怒り以上に安堵感、解放感が溢れてきて一気に体中の力が抜けた。

先輩も状況を飲み込んだらしく、「S、お前なぁ~」とミラー越しにSを睨みつけていた。 

コイツは最悪だ。コイツとだけは二度と心霊スポットには近付かない。

あーでも、良かった~… 

先輩も同じ気持ちだったのだろう。

普段怒りッポイ性格だが、Sを責めるコトはあまりせず、彼女をなぐさめていた。 

落ち着きを取り戻した車内は一気に明るくなり、

Sがあの時の状況を再現するなどして、街に戻る頃には元のテンションでハシャイでいた。 

ちょうどコンビニに差し掛かり、先輩が「飲み物買うか」 と言ったその時だった。

「ドン」 

車の屋根から大きな音がして車内が揺れた。 

先輩はとっさに急ブレーキを踏んでしまい、後続の車からクラクションが鳴り響いた。 

先輩「えっ何!?今の何なん??」

R(先輩の彼女)「とりあえずコンビニ入ろ!後ろの車に迷惑だし!」

自分にも何がなんだかさっぱりだった。鳥か何かかな?でも有り得るか、そんなコト…

考えている内に、車はコンビニに入った。 

急いで車から降り屋根を確認するが、ヘコんでいる様子はない。

携帯のライトで照らしても、傷がついたような跡は見当たらなかった。 

先輩「おかしいなぁ。絶対何か落ちてきたよなぁ!なぁ!」 

何が起きたのか全く検討がつかず、車の周りや近くの道路をウロウロしていたら、

Sが降りてきていないコトに気づいた。 

車に戻り、Sに「どうした?」と聞くが返事が無い。うつ向いて少し震えている気がした。

変な胸騒ぎがして強めに肩を揺すって、「おいどうしたんなお前!!」と叫んだ。 

Sはしゃがれた声で、

「ついてきとる」と呟いた。 

Sの一言に自分は正気を失った。 

「ついてきとるって何なん!?お前あれ嘘だったんと違うんか!!」

Sは青ざめて震えている。先輩の彼女も泣き出してしまった。

とりあえず落ち着こうというコトで、コンビニで暖かい飲み物を買って与え、少しずつ話してもらった。 

S「ハナッからヤバかったんじゃ、あの場所は。

 バリケードあったじゃろ?

 あれ、わざわざ林の奥まで逸れたのは、有刺鉄線があったからじゃなくて、

 バリケードのすぐ向こうに、人が立っとったからなんよ… 

 お前には見えてなかったみたいだから、何も言えんかったけど、

 あそこで行くのヤメようて言ったら、糞カッコ悪いやん。 

 バリケード越えても、霊はウジャウジャおったよ。林の中や林道に立ってた。

 でも、俺らには何の興味も無さそうに見えたから、何とか平気なフリができたんよ。 

 …ダミーの家に着いた時、そこにはホンマに霊はおらんかった。

 やっと安心して、煙草吸おう思ったんじゃ。

 で、火着けよる間にお前がどっか行くから、お前の方見たらおったんじゃ。髪の長い女が。 

 チェーンくぐろうとしとるお前を見下ろしとった。 

 とっさにお前呼んで逃げようとしたけど遅かった。

 お前が振り向いた時には、その女がお前の背中に抱きついとった」

「そっからはあんまり覚えてない。無我夢中で車に逃げ帰って。下向いてガタガタ震えとった。

 すぐにお前も乗り込んできたけど、恐くてお前の方向けんかった。 

 でも下向いている俺の視界にも、お前の足元まで垂れている長い髪の毛が飛込んできたんよ。 

 もう我慢できんかった。

 どうにでもなれと思って、お前の背中を思っきり叩いたんよ。

 効くとは思わんかったけど…女はいなかった。

 …後はわかるだろ?俺嬉しくてさ…」

そう話すSの声は相変わらずしゃがれており、全員が絶句した。 

力を振り絞って聞いてみた。 

自分「それで…さっきの車の音はその女で、まだ俺に憑いてるっての…?」 

S「…多分、見えるヤツに乗り換えたか、お前の背中叩いたのがアカンかったか…今俺、鏡とか絶対見たくない…」

Sは震えているのに、妙な汗をベットリとかいていた。 

先輩は心配したが、Sは自宅に帰ると言って聞かない。

独り暮らしってこともあって心配になった俺は、Sの家に泊まるコトにした。 

滅茶苦茶怖かったのだが。

Sのアパートに戻った自分達は、飲む予定で買っておいた酒も飲まず、直ぐ様寝てしまった。 

ビクビクして寝るドコじゃないと感じていたが、不思議とすぐに意識が飛んだ気がする。 

次に意識が戻った時、洗面所の声から、「ゲェ~~!!ゲェ~~!!」と、何かを吐く声が聞こえた。 

急いで洗面所に向かうと、Sが便器にうずくまって吐いていた。 

「大丈夫かっ!?S!!しっかりしろ!!Sっ!!」

叫びながら、夢中で背中をなんどもさすった。

でも、便器の中を覗いて氷ついた。 

Sは血を吐いていた。 

飛びそうになる意識を必死で保ち、狂ったようにSの背中を叩きまくった。 

「コノ野郎!!ふざけんな!!コノ野郎!!」 

泣きながら、ひたすらSの背中を叩き続けた。 

寝るために薄暗い豆電球にした部屋の電灯が、風も無いのにユラユラ揺れていたのを鮮明に覚えている。 

どのぐらい時間がたったのかわからないが、呼んでおいた救急車が到着し、

運ばれるSと共に救急車に乗り込み、病院に向かった。 

すでにSに意識はなかったが、俺の服を掴んではなさなかった。 

Sが救急病院にて治療を受けた後、医者から説明を受けた。 

Sは声帯を損傷しているとのコトだった。

ただ、「滅茶苦茶に叫んだ程度ではそうならない」という訳で事情を聞かれたが、俺は答えることができなかった。

翌日から別の病院に入院し、俺は毎日の様に見舞いに行ったが、声帯治療のためSは話せなかった。

紙に文字を書いての会話となったが、むなしく、そして悲しくて、あまり多くの会話はできなかった。 

もちろん、あの夜の事など聞けない。

しばらくそんな感じで過ぎて行き、もうじき退院というある日、見舞いに行くとSがいなかった。 

聞けば、「昨日退院した」ということらしかった。 

連絡ぐらいよこせよと思いつつ、Sに退院おめでとうのメールを送った。 

ポストマスターからメールが返ってきた。Sはメアドを変えていた。

嫌な予感がしてあわてて電話するが、番号自体変えていた。 

とにかく大学にくるのを待つしかないと思ったが、Sは来ない。

嫌な予感は的中した。S大学を辞めていた。

総務課で実家の番号を調べて欲しいと頼んだが、

「辞めた生徒の電話番号を勝手に教えることは出来ない」とのコト。 

完全に連絡をとる手段が途絶えた。 

その後約2年間、俺が大学在学中はSに会うことはなかった。 

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