B2

2017.01.06.Fri.11:01

エレベーターのドアが開き 若い女性が入ってきた。ほっそりとした顔立ちで女優の松〇奈〇似のなかなかの美人だ。

その女性は 行先ボタンを押すと(B2)が点灯した。

あれ?・・・先にエレベーターに乗っていた村田は不思議に思った。

たしかこのビルは地下一階までのはずだが・・・

村田はこの10階建ての雑居ビルのボイラーマンとして毎晩遅くまで働いていた。

彼は独身で お人良しときているから人の分まで仕事を引き受けてしまい その日はとうとう最後の点検時間までそのビルに残るはめになってしまったのだ。

狭いエレベーター内には 村田のその女性しかいない。

ドアの近くに立っている彼女の後姿に つい目がいく。

ミニスカートからのびるスラリとした足がとても悩ましい。

また何とも言えぬ 香水の香りが鼻腔をくすぐる。

村田の視線を感じたのか 女性が振り返った。

彼は目をそらすと わざとらしく上の階表示を見た。

すると どうしたことかエレベーターは一階を過ぎ なおも下に向かっている感覚だ。

慌ててボイラー室のある地下一階のボタンを押そうと思ったが 彼女の体が邪魔して押せない。

「あ・・・あのすみません。 地下一階押してもらえませんか。」

「地下一階でございますね。 かしこまりました。」

彼女はまるでエレベーターガールのような口調で対応し ボタンを押したがもう遅かった。

「地下2階って・・・あるんですか?」 村田が聞くと

彼女はにっこりと笑みを浮かべながら言った。「行けば分かりますわ」・・・と

やがてエレベーターは止まり 音も無くドアが開く。

しかし何もないし 何も見えない。

何なんだ・・・此処は一体・・・。

すると 女性がス~と出て行き まるでその階に溶け込んでしまったかのように姿を消してしまった。

村田は一瞬背筋が凍りつくような感覚を覚えたが 無我夢中でB1ボタンを押した。

エレベーターは何事も無かったかのように上昇し 彼はほっとした。

しかし エレベーターを降りた彼は 恐ろしい事に気が付いたのであった。

今見ても 壁の階表示灯は地下一階までしかない。

では さっきの地下2階は 何だったんだ・・・

それに あの綺麗な女性は・・・

・・・とその時 「どうかしましたか?」

薄暗い地下一階のエレベーターホールの前に立ち尽くしている村田に 深夜警備のガードマンが声をかけた。

「あ・・・あの ここは地下一階までしかありませんよね?」

「はい そうですけど」

「しかし今 地下2階まで降りたんですよ。女性が一緒に乗ってて その女性 そこで降りたんです」

ガードマンは一瞬 ためらうような素振りを見せ 「ま・・・またですか。」

「えっ? 何ですか またって?」

「このビルが建った当時 ここはデパートでしてそれでエレベーターガールがいましてね。その中の一人が上司との不倫に悩んだあげく 屋上から飛び降り自殺したのです。それでも彼女は 職業意識が強く 時々 ああやってエレベーターに乗っているんでしょう。」

村田はがくがくと膝を震わせながら

「じゃ・・・じゃあ 僕もあの時地下2階で降りていたなら あの世に引き込まれていたって事なのか?」

「いや その心配は無用ですよ」

ガードマンはキッパリとした口調で言い また見廻りに向かおうとした。

「何で そんな事が言いきれるんだ‼ 僕は顔を見られたし 話もした‼ これからも時々付きまとわれるかもしれないじゃないかっ‼」

ガードマンは立ち止まり 振り返るとこう言った。

「大丈夫ですよ。 彼女は僕に会いにくるだけなんですから」

「彼女の 不倫相手と言うのは この僕なんですよ」

そう言うと ガードマンはニヤリと不敵な笑みを浮かべ ス~と暗闇の中へ消えてしまった。

村田は腰が抜けてしまい その場にへなへなとへたりこんでしまった。

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