部屋の角隅

2017.01.14.Sat.16:05

これは私が大学2年生の時、保母さんのバイトを始めたばかりの頃のお話です。

期待と不安が入り混じる初仕事で、両親の帰りが遅い家庭の子のお守りをすることになりました。

可愛らしい一人っ子の女の子です。

その子は内向的な性格のせいで、あまり友達は多くないそうです。

案の定、初対面の私が優しく話しかけても、なかなか心を開いてくれませんでした。

ですから私はそんな彼女の心に少しでも近づけるよう、様々な試行錯誤を繰り返しました。

それから一ヶ月ほどが経過して、ようやく彼女も私に親近感が湧いてくれたようでした。

その子はどうもお絵描きが好きらしく、何か描いては私に見せてくれるようになったのです。

特に、風景画を描くのが好きなようでした。

その子の部屋の壁には、独特な色使いの作品が所狭しと飾ってあるのです。

そんなある日、彼女がいつものように絵を描いていた時のこと……。

「わぁ、とっても上手だね。お姉ちゃんのこと描いてくれたのね?ありがとう。」

突出した完成度の一枚の人物画。

私はその子の頭を、愛情を注ぐように撫でました。

その子が初めて描いた人物画モデルが私だったので、つい嬉しくなったのです。

すると、意外な答えが返ってきました。

「それ……お姉ちゃんじゃないよ。」

その子は静かに呟くのです。

「……え?」

その絵をもう一度見直しました。

角隅の壁をバックに、どこか憂いげな表情で佇む女性。

言われてみれば確かに、私ではなさそうでした。

「じゃ、じゃあ……この人は?」

瞬時に喉が渇き、声が上ずり、嫌な脂汗が額に滲み出ました。

「いつもそこにいる人だよ。」

その子は何のためらいも無く、私の背後の角隅を真っ直ぐ指差すのです。

私は背筋が凍るような思いがして、ゆっくりと後ろを振り向きました。

異常は……無いようです。

「もぅ、ビックリさせないでよ~。」

私は強張る肩の力が抜けて、自然と視線を下ろしました。

「……あれ?」

一瞬思考が停止して、血の気が引く感覚で意識を取り戻しました。

そこには、数本の長い黒髪が落ちているのです。

私は茶髪、その子はショートヘアーなのに……。

その子は私の震え上がる背中に、容赦無くトドメを刺しました。

「今もね、お姉ちゃんのこと……ジィーと見てるよ。」

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