湖面の人影

2017.01.14.Sat.21:06

私が大学の先輩のダイバーのAから聞いた話。

その人は東京出身だが大学院の研究のためにダイビングの資格を取り頻繁に潜っていた。

研究のために資格を取ったといってもダイビングは楽しくよく潜っていたそうだ。

ちょうどAが滋賀県の北のほうに調査で来ていた時のことだ。

その日は暑く潜りがいがある日だったそうだ。

いつものように研究室の仲間のBとC、地元のダイバーのDと機材を揃えダイビングの前の点検をしていると地元の警察から電話が入った。

どうやら釣り客が湖に落ちたらしくその捜索を手伝って欲しいというようなことだった。

現在は知らないのだが、当時は水難事故があると近くのダイバーにも捜索の要請が来ていたらしい。

Aさんはそこのダイバー達と仲良くなりたいしいつ自分もお世話になるかわからないからとその要請を受けたそうだ。

Aたちに割り振られた捜索場所は水難事故の場所から少し離れた浅瀬。

事故の近くは地元の警察やベテランのダイバーさんが潜るらしく、Aさんたちは「俺たちはまだ信用されてないんだな」とか思いながらも捜索していた。

それから数時間か潜り日もかげってきたが行方不明者がみつかったという連絡はなかった。

だが、Aたちは行方不明者のようなものを見つけてしまった。

最後に見つけてしまったのはCだった。

そろそろ体力的にもキツイし暗い中潜る装備も持ってきてないから上がるか。

と船上でAとBが話していると水面からCが頭を出し沖の方を指差し叫んだ。

「向こうのほう一キロくらい先に人みたいなものが浮いてるぞ!」

続いてDも同じように顔を出して同じことを叫んだ。

普通、琵琶湖の水中は視界が悪く一キロも先のものなど見えるはずもないがその時はなぜかはっきりと見えたらしい。

AはとりあえずCとDを船にあげ彼らの指を指す方へ目を凝らした。

するとそこには1人の人影が見えた。

その人影は水上に立って歩いているように見えた。

「スタンドアップパドルじゃね?」とB。

スタンドアップパドルとは大きいサーフボードの上に立ちオールで漕ぐ乗り物だ。

その言葉にCが「それならあんな沖じゃやらないでしょ」と返す。

それにオールもボードもなくただ水中を歩いている。

そんな会話をしていると人影がどんどん近づいてくる。とぼとぼ歩きの歩幅から考えるとありえない速さだった。

気づくと人影は倍くらいの大きさになっていた。

「あれ?釣り人っぽくね?」BがそうつぶやくとDが何かを思い出したように叫んだ。

「おい!!逃げるぞ!!」

そう言ってエンジンをふかしボートをすっ飛ばした。

どうした?と困惑するAたちに怒鳴り声に近い声でDが言う。

「お前らあれがこの世のもんだとおもうのかよ!」

そう言われて振り返ると人影はさらにこちらへ近づいているようだった。

おかしい、こっちはエンジンをフルにふかしているはずなのに。

それだけではない、影の後方にちらほらと同じような人影が見えた。

それを確認したDはさらに焦ったようにエンジンに負荷をかける。

早くしろよ!!とボードの端を殴る!

その間にもどんどんと距離は縮まり数もぞろぞろと増えていく。

あああ、と全員が情けない声をあげる。

最初に見えた人影が手を伸ばせばとどくのにも満たないくらい近づいてきたときようやくAたちは勢いよく砂浜に乗り上げた。

どうやら浜辺にはその人影は上がって来れないようだった。

ぞろぞろと水の上を行ったり来たりしていた。

早く離れよう。

ボードを係留する間も無くその場を離れた。

そのあと捜索に出ていた人たちで集まる報告会で信じてもらえないのを承知でこの事を話すとベテラン漁師さんから

「琵琶湖のここら辺は死体が仲間を探して歩いてんねんで」

と言い、別の方がこう続けた。

「一度魅入られたらしつこく付きまとわれるやけぇもう湖に近づかない方がええ。次は本当に引き込まれる。」

それからAたちは琵琶湖を離れその研究は後輩に任せもう全くその地域には踏み入ってないそうだ。

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