トイレ

2017.01.17.Tue.11:11

私たち姉弟が同時に体験した話です。

あれは中学生のときでした。

学校はテスト期間で、私と弟は徹夜で暗記物を詰め込んでいました。

お互い別の部屋にいるので姿は見えなかったけど、壁越しに椅子の回る音や咳払いが聞こえていて、「あぁ、向こうもまだ起きてるんだ」と思っていました。

夜中、トイレに行きたくなって、私は勉強していた手を止めました。

時計を見ると2時半ぐらいをさしていました。

部屋のドアを開けて、トイレに行き、ドアノブに手をかけました。

ノブが下りず、つっかえる感じがしたのでびっくりして顔をあげると、中から光が漏れていました。

弟が入っていたのか…、まだトイレを我慢できるし、やつもすぐに出てくるだろう、と思って部屋に引き返し、また勉強を再開しました。

しかし何分か待っても、水の流れる音が聞こえてきません。

自分もトイレ行きたいけど、お腹でも下ったのかもしれないから急かしても悪いかな、と考えて出てくるのを待つことにしました。

その後も、水の流れる音が一向に聞こえず、どのくらい時間が経ったのかと思って時計を見ると、ちょうど3時になったところでした。

さっきドアノブに触れてから30分も経っていました。

もしかしたら、勉強に集中していて出てきたのに気づかなかったのかもしれない、と思ってトイレへと向かうと、まだ明かりがついていました。

私は大きな声で「大丈夫?」と言いました。

中から返事が返ってきません。

「腹下ってんの?」

「…。」

「ちょっと…、大丈夫?」

「…。」

全く返事が返ってこなかったので、明かりをつけたまま部屋に戻ったのかと思ってドアノブに手をかけました。

すると、相変わらずドアノブが下りません。

しかも、よく見ると、鍵はかかっておらず、鍵のオンオフを示すところは青色になっていました。

中からドアノブを押さえているようでした。

私は尿意が限界だったので、

「早めに出てね!」

と大きめに言って、部屋に戻しました。

しかそ、5分も持たずに更に尿意が悪化し、再びトイレへ向かいました。

まだ明かりはついています。

鍵はかかっていません。

「入ってる?」

「…。」

相変わらず返事はありません。

「ちょっ、いい加減にして!」

さすがに痺れを切らし、両手でドアノブを握ると、全体重をかけてドアノブを押しました。

しかし、鍵がかかってるとしか思えないぐらい、びくともしません。

「ねぇ…、大丈夫?何してんの?もれるんだけど!」

「…。」

返事はありません。

こっちは何度も声をかけたし、本当に限界だったので、いよいよ怒りが頂点に達して、私はドアを開けることにしました。

鍵はかかっていないのだから、隙でもついてドアノブさえ下ろしてしまえばドアを引けると考えて、不意討ちするように突然、全体重をドアノブにかけました。

軽くカチャッと音がして、ドアノブが少し下がったので、間髪入れずにそのままドアを引きました。

すると、中から反対に引っ張られてしまって、ドアがあきません。

ドアノブは下がるようになったものの、今度は中で踏ん張られて、閉める方向に中で引っ張っているようでした。

しかも、こちらも全力でしたが、向こうも全力でやっているらしく、なかなかドアがあきません。

指の一本でも滑り込ませる隙間が作れたら、すぐ指を突っ込んで閉まらなくしてやろうと考えていましたが、そんな隙間も作れないほど強い力で引っ張られていました。

「いい加減にしな!」

と言って、ドアに蹴りを入れたけど、相変わらず返事はありません。

私は両手でドアノブをつかみ、片足を壁につけて、自分の出せる全力でドアを引きました。

しかし、あきませんでした。

その時、ふと頭に、トイレ内の様子が浮かびました。

そんなに広い部屋ではありません。

トイレ内は便座とペーパーを置く台があるぶんしか空間はありません。

男女の力の差が出てくる時期とはいえ、もうすぐ高校生になる私が全力で引っ張っているのに、まだ中学生になったばかりの弟が、しかも十分に踏ん張る空間のない状況で、私以上の力を出してこんな行動が取れるだろうか?と疑問になったのです。

(私は体操部、弟は帰宅部だったので弟が異様に私より力持ちだったわけではありませんでした。)

ここまで考えると、中にいるのが本当に弟なのか不安になり、「誰?」と聞きました。

お察しの通り、返事はありません。

誰にせよ、おちょくられ過ぎてるなぁという気持ちと、本当に尿意が限界だったので、怒りMaxになだていたのとで、ふざけるな、と怒鳴り、やけになって馬鹿力でドアを引きました。

ものすごい力で閉めようとされたものの、4分の1ほどドアが開いたので、ドアに手をかけたときでした。

ガッ

と、中から、小学校低学年くらいの細くて白くて小さい腕が、肘から先のぶんだけ出てきて私の腕を掴みました。

私は一気に青ざめてしまいました。

と言うのもその腕が、左腕だったのです。

ドアは私側からすると、右手で掴んで右に引いて開けるタイプでした。

つまり中で引っ張り合いをしていたら、向こうは左でノブを握って左に向かって引いて、閉めようとしていたはずで、とっさに出てくるのは右腕のはずです。

また、これだけの力の張り合いをするのに、用を足しながらしていたとは到底考えられませんでした。

私は、怖くなって、その腕を振りほどいてドアを閉めると、弟の部屋に向かいました。

いるはずがないのに。

なぜかその時、私の足は一直線に弟の部屋へ向かっていました。

いるわけない、いるわけない、と自分に言い聞かせるように呟きながらドアを開けました。

「いきなり何?」

と、イヤホンを外して、気だるそうな声で、弟が振り返りました。

どうして部屋にいるんだ…?

今さっき、私の腕を掴んできたあの手は…誰?

そんなはずない、と思いながら

「トイレに居たんじゃないの?」と聞くと、

時計を見ながら、

「いや………そうだなー、最後に行ったのは0時まわったぐらいだったと思うよ」

と言われました。

私は弟にトイレのドアが開かないから開けてほしいとだけ言って、渋る弟をつれてトイレに戻りました。

相変わらず電気はついたままで、鍵は開いているという表示になっていました。

両手でドアノブをつかみ、先ほどの様に全力で引っ張って見せました。

「ほら…ね?開かないんよ。」

何度も何度も、うんうん言いながら引っ張っているのを見て、私がからかっていないとわかったようでした。

さっきの手が頭をかすめ、ふとドアノブから手を離しました。

「わかったから!…やってみる。」

そう言って、弟がドアノブに手をかけました。

私が今まで奮闘していたのとは明らかに違って、すんなりとドアが下りて、普通にドアが開きました。

中には誰も居ませんでした。

「大げさに演技して…何がしたかったの?」

と呆れ顔で弟が言って、

「ま、いいや、ついでに入っとく。」

と言ってトイレに入って行きました。

私は呆然として、外に立っていました。

中から用を足す音が聞こえていました。

そして、水が流された音がして、ドアノブが下がったときでした。

「…あれ?」

ドアノブがカチャカチャと音を立てて上下するものの、弟が出てきません。

「何してんの」

と声をかけるのと同時に

「そっちこそ何してんの?まだふざけてんの?」

と返されました。

弟は、私が外から押さえてると思ったようでした。

「なんもしてないよ?」

「…えっ?」

……。

少し間があいたあと、私はとっさにドアノブをつかみ、全力で引っ張りました。

開くどころか、ノブが全く下がらずびくともしません。

「…開かない」

「えっ、まじで?」

カチャカチャと、ノブが上下するものの、ドアはあきませんでした。

そのうち、ドン、ドン、と中でドアにタックルする音が聞こえてきました。

「こっちからも引っ張ってみるよ」

そう言って、タイミングを合わせて、弟は全力でドアを押し、私は全力で引きました。

それを何回か繰り返してみましたが、びくともしません。

私は弟をなだめると、親を起こしに行きました。

親といっしょにトイレに戻ると、親はすぐに弟を呼びました。

「○○いるん?」

「いる、開かねー」

そう言って、タックルする音と、ドアノブが上下するのが見えました。

私も全力で引っ張って見せました。

全くびくともしません。

少し焦った顔で、親がドアノブを握りました。

結果、ドアはすんなりと開きました。

「あんたら、夜中に何がしたいの?」

親はそう言って、半ギレでさっさと寝室に戻っていきました。

私たち姉弟は、ただぽかんとして、戻っていく親を見送ると、部屋に逃げるように戻りました。

部屋に戻ってから、急に尿意も帰ってきましたが、私は怖くてドアを半開きで用を足しました……

それ以来10年あまり、私たち姉弟はそのトイレを使わず、もうひとつある別のトイレを使っています。

弟は閉じ込められたとき、何も見なかったと言っています。

一体あの腕の主は、どこに行ったのか、そもそも誰だったのか、今もまだ、家のトイレにいるのか、なんとも不思議で、少し怖いです。

長くなってしまいましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。

ずっと周りに言えなかったので、吐き出す場をお借りできてよかったです。

失礼いたしました。 

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