夢じゃないよ

2017.01.22.Sun.11:36

大学1年の夏のことだった。

当時、私は実家から通っていた。高校の時分は弟と相部屋だったので、大学生になった時点で、俺だけの部屋をよこせと空き部屋をもらった。

私の家は昔旅館を営んでおったため、3階に古い感じの客室が3つほど空いていた。

そのうちのひとつをもらい、ねぐらとしていたのだ。

トタン屋根の直ぐ下の部屋であり、日中十分すぎるほど陽に熱され、その夜も非常に寝苦しかった。

あまりの暑さの為だろうか、明け方近くに私はふと目を覚ました。

すると枕の向こう側に何やら気配がする。なんだ、と思い見てみると、私の枕側に枕を向ける格好で髪の長い見知らぬ女が寝ておるではないか。

やや、何だこの女は。

その当時は既に宿泊目的の営業はしていなかったが、それでも依頼があれば年に何度か泊り客をとることがあったので、さては部屋を

間違えておるな、と思った私は、「あのぅ、部屋、間違えてますよ」などと間抜けな台詞を吐いた。

冷静に考えれば、かなりおかしい。なぜなら、私ひとりしか生活していない部屋であるため、布団は当然一組しか敷いておらぬ。

そして部屋を間違えた人間がわざわざもう一組敷き直して寝たりするだろうか。否。断じて否。しかも、自分の知らぬ人間が寝ている部屋である。

寝起きで呆けた私はそんなことすら思い付かず、先程のかなりどうかしてる発言をした。すると、その女はいきなり「あーっはははははははははは」などと狂ったように笑い出すではないか。

うわぁっ、と思った瞬間、ガクッと体が固まった。

指一本さえも動かせないのである。

冷や汗が出る。でるでる。

こ、恐い。こわいこわいこわい、と怖がっている間も、女の哄笑は続く。

はっ、そうかこれは夢だ。夢なのだ。

私は夢の中で、あ、これは夢だと認識するようなメタフィクション的な夢を何度か見た事があったので、なんとか冷静を保とうと思い、そんなことを考えた。

すると、いきなり狂女の笑いが止んだ。

どうしたのだ、と思っていると目の前に突然その女の顔が逆しまに現れた。

そして、その女はそこだけ妙に紅い唇をきゅっと歪め、凄い笑みを浮かべてこう言った。

「違う。これは夢じゃないわよ」

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