カタ、カタ

2017.02.05.Sun.16:14

この音が聞こえ始めたのは、僕が大学へ行くために上京して一ヶ月がたった時からだった。

僕が、引っ越したのは二階立ての築40年の風呂なしアパートの上の部屋。

引っ越しのときは値段が安ければいいやと思い軽い気持ちでそのアパートに決めた。

今、思えばもっと慎重に決めておけばよかったと思う。

その音が初めて聞こえたのは五月深夜2時くらい、ちょうど新歓コンパの後だった。

酒に酔った僕は家に帰ると電気を付けず、すぐにベッドに倒れ込みそのまま寝ようと思った。

すると天井から音が聞こえて来た。

「カタ、カタ」

最初は、ネズミがいるんだろうと思っていた。

しかし、それから一ヶ月の間、決まって深夜2時になるとその音が聞こえるようになった。

「カタ、カタ」

「カタ、カタ、カタ、カタ」

しかも、日が経つにつれその音が大きくなっていき気づくとその音のせいで眠れなくなっていた。

そんな日々が続いたため僕は音の原因を駆除しようと思い。天井裏を開けてみた。

天井裏は思っていたとおりネズミの糞だらけだった。僕はネズミの通り道のようなところに何個かネズミ取りをしかけ天井裏を閉じた。

その日の夜の事だった。

深夜2時、いつも通り音が聞こえてきた。

「カタ、カタ」

「カタ、カタ、カタ、カタ」

しかし、今回はいつもよりもはげしく音が聞こえてきた。

「カタカタガタカタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ」

今まで味わったことのない不気味な雰囲気に驚いた僕は電気の紐に手を伸ばした。

その時、何がねっとりとしたものが腕に触れた。

手だった。

天井から伸びたぐじゅぐじゅに崩れて赤黒い汁を垂らした手が僕の腕をつかんでいたのだった。

一瞬、身体が凍ったが全力でその手を振り払おうとした。

しかし、その手はものすごい力で腕を離さず天井裏に引き込もうとしてくる。

その力になす術がなく肩辺りまで天井裏に引き込まれた。

もうダメだと思ったその時、僕はもう一方の手で何とか電気をつけることができた。

すると一瞬だけ力が弱まり、なんとか手を振り払いなかば蹴破る形でドアから外に出ることができた。

その晩、ファミレスで夜を明かし友達の家に転がり込んだ。

夢だと思いたかったが手に掴まれた時についた赤黒い汁の後が夢ではないことを物語っていた。

それから僕は友達の家を転々として別の部屋にひっこすことにした。

引っ越しの全てを業者に任せたが、一度だけ不動産屋との契約のためにその部屋の状況の確認にいかなければならなかった。

一通り壁などに傷がないか確認した後、ふと天井から視線を感じてそっちをみると、

天井の隙間から、ぐじゅぐしゅに腐り、目のていをなしていない目がこっちを向いて笑っていた。

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