サヨちゃん

2017.02.09.Thu.21:06

俺は小学校に入るまでは、広島の田舎の方に住んでいた。

その時に知り合い(仲良しではない)だった『サヨちゃん』の話をしよう。

俺の母方の実家は見渡す限り畑ばかりのド田舎で、幼稚園も保育園も無い。

俺は母親と祖母とともに家で遊んでは、父親の帰りを待っている毎日で、退屈しきっていた。

近くの町に出かける時だけが楽しみで、

よくお決まりの公園に行っては、買い物をしている母親を待ちながら遊んでいたものだ。

ある日、公園に同じ歳くらいのかわいい女の子がいて、一緒に遊ぶようになった。

その子は『サヨちゃん』といって、この町に住んでるらしく、一人で遊びに来てるらしい。

黒いスカートと白いシャツを着たオカッパのかわいい子で、俺はすぐに打ち解けて砂遊びを始めた。 

乾いた砂場をスコップで掘り返し、大きな砂山を作って、二人で両方の側面から穴を掘っていく。

手で砂をかき分けながら掘り進み、ちょうど山の内部でお互いの手が触れ合えばトンネル開通だ。

俺はそろそろサヨちゃんの手に触れるかな?と、真ん中あたりまで掘り進んだ時、何かが俺の手を掴んだ。

そのまま俺はすごい力で引っ張られて、頭から砂山に突っ込んだ。

しっかり押し固められた砂山は崩れず、俺は砂山に押し付けられる形で窒息しそうになり、

「やめてよ!サヨちゃん!」と叫んだ。

すると「え?な~に~?」と、サヨちゃんが砂山の向こう側からこちらを見ていた。

サヨちゃんは中腰姿勢で手を砂山に突っ込んだまま、俺を見ながらニヤニヤしていた。

それはどう見ても5,6歳の少女の手の長さとは考えられず、

俺はわけのわからないまま、「やめて!やめて!」と連呼した。

そこにタイミングよく母親が帰ってきて、俺はサヨちゃんの手から解放された。

しゃっくりをあげ始めていた俺の横をすり抜けて母親に礼をすると、サヨちゃんは走って去った。

子供ながら、母親に話しても信じてもらえないと考えた俺は、結局何も言えずに家に帰った。

それ以来どうも俺は、彼女に目をつけられたらしい。

母親は町に出かけるたびに俺を公園にほっぽり出し、俺はその度にサヨちゃんと遊ばなくてはいけなかった。

彼女はいつも黒いスカートと白いシャツの一張羅で、親が付き添って来た事は一度も無かった。

丁度母親が公園から出て行くのを見計らうように、入れ違いに現れるのだ。

公園には他の子供が先に遊んでいる時も多々あったが、

サヨちゃんが公園に入ってくるだけで、

俺と同じくらいの年の子はおろか、小学校の高学年らしき子さえもコソコソ逃げ出していく。

俺は何よりサヨちゃんに逆らう事ができず、サヨちゃんのいいなりだった。

公園の片隅に落ちていたライターを、サヨちゃんがちょん、と触るだけで、いきなり火がついた事があったし、

塀の上を歩いている猫に向かって、サヨちゃんが枯葉を丸めて投げつけると、

猫が受身もとらずに背中から落ちた事もあった。

サヨちゃんに会うごとに信じられない事が度々起こり、俺は彼女に会うのに恐怖を感じるようになった。

俺は、公園で毎回怖い目に遭ってたんだ。

その内、自然と家に篭もりがちになり、母親の買い物にもついて行かなくなった。

子供ながら、サヨちゃんから逃げようとしたわけだ。

公園に行かなくなって一ヵ月くらい後、久々に父母ともに親子揃って買い物行こう、という事になった。

親父が車を出すというので、ならサヨちゃんに会わなくても済むと思って、俺は快諾した。

デパートをまわって楽しい一時を過ごした後、俺の乗った車は帰り道で公園の前に差し掛かった。

公園の入り口はこちらの車線の歩道にあって、

タイミングの悪い事に、車は丁度その入り口近くで信号機に止められた。

俺は内心サヨちゃんに見つからないようにドキドキしながら、窓からこっそり公園の中を窺った。

すると彼女は居た。一人で。何か指差しながらゲラゲラ笑っていた。

よほど可笑しいのか、まるでのたうち回るように地面に這いつくばって笑い転げていた。

俺は唖然となったが、その時信号が青に変わって車が発車した。サヨちゃんの姿が流れて行った。

しかし、サヨちゃんの指先は俺の車の動く方向へスライドしていった。

彼女は俺の乗った車を指差して笑っていたのだ。

俺は、なぜ俺が乗っていたのがわかったのか、と考えるより先に怯えた。

次の日、親父は車の激しい追突事故でカマを掘られ、頚椎に損傷。ほぼ一生入院生活が決まり、九州の病院へ。

母親と俺は共に九州に行き、父方の実家の世話になり、そこで小学校に入学した。

サヨちゃんと会う事はもう無かった。

俺は、親父の事故は彼女のせいだとは思っていない、というか思いたくない。

俺まで連帯責任を感じてしまうし、何よりあの女の仕業かもと考えるだけで恐ろしく、忌々しく感じて、

今でも腹が立つからだ。

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