ヒッチハイク その1

2017.02.11.Sat.11:43

今から7年ほど前の話になる。

俺は大学を卒業したが、就職も決まっていない有様だった。 

生来、追い詰められないと動かないタイプで、(テストも一夜漬け対タイプだ)

「まぁ何とかなるだろう」とお気楽に自分に言い聞かせ、バイトを続けていた。 

そんなその年の真夏、悪友のカズヤ(仮名)と家でダラダラ話していると、 

なぜか「ヒッチハイクで日本を横断しよう」と言う話に飛び、その計画に熱中する事になった。 

その前に、この悪友の紹介を簡単に済ませたいと思う。

このカズヤも俺と同じ大学で、入学の時期に知り合った。

コイツはとんでもない女好きで、頭と下半身は別と言う典型的なヤツだ。 

だが、根は底抜けに明るく裏表も無い男なので、女関係でトラブルは抱えても、男友達は多かった。 

そんな中でも、カズヤは俺と1番ウマが合った。

そこまで明朗快活ではない俺とは、ほぼ正反対の性格なのだが。 

ヒッチハイクの計画の話に戻そう。

計画と行ってもズサンなモノであり、 

まず北海道まで空路で行き、そこからヒッチハイクで地元の九州に戻ってくる、と言う計画だった。 

カズヤは「通った地方の、最低でも1人の女と合体する!」と、女好きならではの下世話な目的もあったようだ。

まぁ、俺も旅の楽しみだけではなく、そういう期待もしていたのだが… 

カズヤは長髪を後ろで束ね、一見バーテン風の優男なので、(実際クラブでバイトをしていた)

コイツとナンパに行って、良い思いは確かにした事があった。 

そんなこんなで、バイトの長期休暇申請や、

(俺は丁度別のバイトを探す意思があったので辞め、カズヤは休暇をもらった)

北海道までの航空券、巨大なリュックに詰めた着替え、現金などを用意し、

計画から3週間後には、俺達は機上にいた。

札幌に到着し、昼食を済ませて市内を散策した。

慣れない飛行機に乗ったせいか、俺は疲れのせいで夕方にはホテルに戻り、カズヤは夜の街に消えていった。

その日はカズヤは帰ってこず、翌朝ホテルのロビーで再開した。 

にやついて指でワッカをつくり、OKマークをしている。

昨夜はどうやら、ナンパした女と上手く行った様だ。 

さぁ、いよいよヒッチハイクの始まりだ。

ヒッチハイクなど2人とも人生で初めての体験で、流石にウキウキしていた。 

何日までにこの距離まで行くなど綿密な計画はなく、ただ「行ってくれるとこまで」という大雑把な計画だ。

まぁしかし、そうそう止まってくれるものではなかった。

1時間ほど粘ったが、一向に止まってくれない。 

「昼より夜の方が止まってくれやすいんだろう」等と話していると、

ようやく開始から1時間半後に、最初の車が止まってくれた。 

同じ市内までだったが、南下するので距離を稼いだのは稼いだ。距離が短くても嬉しいものだ。 

夜の方が止まってくれやすいのでは?と言う想像は、意外に当たりだった。 

1番多かったのが、長距離トラックだ。

距離も稼げるし、まず悪い人はいないし、かなり効率が良かった。 

3日目にもなると、俺達は慣れたもので、

長距離トラックのお兄さん用にはタバコ等のお土産、普通車の一般人には飴玉等のお土産、と勝手に決め、

コンビニで事前に買っていた。特にタバコは喜ばれた。

普通車に乗った時も、喋り好きなカズヤのおかげで、常に車内は笑いに満ちていた。 

女の子2~3人組の車もあったが、正直、良い思いは何度かしたものだった。 

4日目には本州に到達していた。

コツがつかめてきた俺達は、その土地の名物に舌鼓を打ったり、一期一会の出会いを楽しんだりと、

余裕も出てきていた。 

銭湯を見つけなるべく毎日風呂には入り、宿泊も2日に1度ネカフェに泊まると決め、経費を節約していた。 

ご好意でドライバーの家に泊めてもらう事もあり、その時は本当にありがたかった。 

しかし、2人共々に、生涯トラウマになるであろう恐怖の体験が、

出発から約2週間後、甲信地方の山深い田舎で起こったのだった。 

男友達だけの集まりになると、いつもカズヤは卑猥な歌を歌いだす。その夜もカズヤは歌いだした。 

その日の夜は、2時間前に寂れた国道沿いのコンビニで降ろしてもらって以来、中々車が止まらず、

それに加えてあまりの蒸し暑さに、俺達はグロッキー状態だった。 

暑さと疲労の為か、俺達は変なテンションになっていた。 

「こんな田舎のコンビニに降ろされたんじゃ、たまったもんじゃないよな。 

 これならさっきの人の家に、無理言って泊めてもらえば良かったかなぁ?」とカズヤ。 

確かに先ほどのドライバーは、このコンビニから車で10分程行った所に家があるらしい。 

しかし、どこの家かも分かるはずもなく、言っても仕方が無い事だった。 

時刻は深夜12時を少し過ぎた所だった。

俺たちは30分交代で、車に手を上げるヤツ、コンビニで涼むヤツ、に別れることにした。

コンビニの店長にも事情を説明したら、

「頑張ってね。最悪、どうしても立ち往生したら、俺が市内まで送ってやるよ」と言ってくれた。

こういう、田舎の暖かい人の心は実に嬉しい。 

それからいよいよ1時間半も過ぎたが、一向に車がつかまらない。と言うか、ほとんど通らない。 

カズヤも店長とかなり意気投合し、いよいよ店長の行為に甘えるか、と思っていたその時、 

1台のキャンピングカーが、コンビニの駐車場に停車した。

これが、あの忘れえぬ悪夢の始まりだった。 

運転席のドアが開き、コンビニに、年齢はおよそ60代くらいかと思われる男性が入ってきた。 

男の服装は、カウボーイがかぶるようなツバ広の帽子にスーツ姿と言う、奇妙なモノだった。 

俺はその時丁度コンビニの中におり、何ともなくその男性の様子を見ていた。 

買い物籠にやたらと大量の絆創膏などを放り込んでいる。

コーラの1.5?のペットボトルを2本も投げ入れていた。 

その男は会計をしている最中、立ち読みをしている俺の方をじっと凝視していた。 

何となく気持ちが悪かったので、視線を感じながらも俺は無視して本を読んでいた。 

やがて男は店を出た。

そろそろ交代の時間なので、カズヤの所に行こうとすると、駐車場でカズヤが男と話をしていた。 

「おい、乗せてくれるってよ!」

どうやらそういう事らしい。

俺は当初、男に何か気持ち悪さは感じていたのだが、間近で見ると人の良さそうな普通のおじさんに見えた。

俺は疲労や眠気の為にほとんど思考が出来ず、

「はは~ん。アウトドア派(キャンピングカー)だから、ああいう帽子か」

などと言う良く分からない納得を自分にさせた。 

キャンピングカーに乗り込んだ時、しまったと思った。

おかしいのだ。何がと言われても、おかしいからおかしい、としか書き様がないかも知れない。 

これは感覚の問題なのだから…

ドライバーには家族がいた。

もちろん、キャンピングカーと言うことで、中に同乗者が居る事は予想はしていたのだが。 

父。ドライバー。およそ60代。

母。助手席に座る。見た目70代。

双子の息子。どう見ても40過ぎ。

人間は予想していなかったモノを見ると、一瞬思考が止まる。 

まず車内に入って目に飛び込んで来たのは、

まったく同じギンガムチェックのシャツ、同じスラックス、同じ靴、同じ髪型(頭頂ハゲ)、同じ姿勢で座る、

同じ顔の双子の中年のオッサンだった。 

カズヤも絶句していた様子だった。

いや、別にこういう双子が居てもおかしくはない。

おかしくもないし悪くもないのだが…あの異様な雰囲気は、実際その場で目にしてみないと伝えられない。 

「早く座って」と父に言われるがまま、俺たちはその家族の雰囲気に呑まれるかの様に、車内に腰を下ろした。

まず俺達は家族に挨拶をし、父が運転をしながら、自分の家族の簡単な説明を始めた。

母が助手席で前を見て座っている時は良く分からなかったが、母も異様だった。 

ウェディングドレスのような真っ白なサマーワンピース。

顔のメイクは、バカ殿かと見まがうほどの白粉ベタ塗り。

極めつけは母の名前で、『聖(セント)ジョセフィーヌ』。 

ちなみに父は、『聖(セント)ジョージ』と言うらしい。 

双子にも言葉を失った。名前が『赤』と『青』と言うらしいのだ。 

赤ら顔のオッサンは『赤』で、ほっぺたに青痣があるオッサンは『青』。

普通、自分の子供にこんな名前をつけるだろうか? 

俺達はこの時点で目配せをし、適当な所で早く降ろしてもらう決意をしていた。狂っている。 

俺達には主に父と母が話しかけて来て、俺達も気もそぞれで適当な答えをしていた。 

双子はまったく喋らず、まったく同じ姿勢、同じペースでコーラのペットボトルをラッパ飲みしていた。 

ゲップまで同じタイミングで出された時は筋が凍り、もう限界だと思った。 

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