ヒッチハイク その3

2017.02.11.Sat.21:50

ミッ○ーマ○スのマーチの口笛。アイツだ!!

軽快に口笛を吹きながら、大男が小を足しているらしい。 

女子トイレの女の子の泣き声が一段と激しくなった。何故だ?何故気づかない? 

やがて泣き叫ぶ声が断末魔の様な絶叫に変わり、フッと消えた。 

何かされたのか?見つかったのか!?

しかし、大男は男子トイレににいるし、他の家族が女子トイレに入った形跡も無い。

やがて、口笛と共に大男がトイレを出て行った。 

女の子がトイレから連れ出されてはしないか、と心配になり、

危険を顧みずに、一瞬だけトイレの裏手から俺が顔を覗かせた。

テンガロンハットにスーツ姿の、大男の歩く背中が見える。 

「ここだったよなぁぁぁぁぁぁぁァァ!!」 

ふいに大男が叫んだ。

俺は頭を引っ込めた。ついに見つかったか!?カズヤは木の棒を強く握り締めている。 

「そうだそうだ!!」

「罪深かったよね!!」と父と母。

双子のオッサンの笑い声。 

「泣き叫んだよなァァァァァァァァ!!」と大男。 

「うんうん!!」 

「泣いた泣いた!!悔い改めた!!ハレルヤ!!」と父と母。双子のオッサンの笑い声。 

何を言っているのか?どうやら、俺達の事ではないらしいが… 

やがて、キャンピングカーのエンジン音が聴こえ、車は去ってった。 

辺りはもう完全に明るくなっていた。

変態一家が去ったのを完全に確認して、俺は女子トイレに飛び込んだ。 

全ての個室を開けたが、誰もいない。鍵も全て壊れていた。そんな馬鹿な… 

後から女子トイレに入ってきたカズヤが、俺の肩を叩いて呟いた。 

「なぁ、お前も途中から薄々は気がついてたんだろ?女の子なんて、最初からいなかったんだよ」 

2人して幻聴を聴いたとでも言うのだろうか。

確かに、あの変態一家の女の子に対する反応が一切無かった事を考えると、それも頷けるのではあるが…

しかし、あんなに鮮明に聴こえる幻聴などあるのだろうか… 

駐車場から上りと下りに続く車道があり、そこを下れば確実に国道に出るはずだ。 

しかし、再び奴らのキャンピングカーに遭遇する危険性もあるので、あえて森を突っ切る事にした。 

街はそんなに遠くない程度に見えているし、周囲も明るいので、まず迷う可能性も少ない。 

俺達は無言のまま森を歩いた。

約2時間後、無事に国道に出る事が出来た。 

しかし、着替えもない、荷物もない。

頭に思い浮かんだのは、あの親切なコンビニの店長だった。 

国道は都会並みではないが、朝になり交通量が増えてきている。

あんな目にあって、再びヒッチハイクするのは度胸がいったが、何とかトラックに乗せて貰える事になった。 

ドライバーは、俺達の汚れた姿に当初困惑していたが、事情を話すと快く乗せてくれた。 

事情と言っても、俺達が体験した事をそのまま話してもどうか、と思ったので、 

キャンプ中に山の中で迷った、と言う事にしておいた。

運転手も、そのコンビニなら知っているし、良く寄るらしかった。 

約1時間後、俺達は例の店長のいるコンビニに到着した。

店長はキャンピングカーの件を知っているので、そのまま俺達が酷い目にあった事を話したのだが、

話してる最中に、店長は怪訝な顔をし始めた。

「え?キャンピングカー?

 いや、俺はさぁ、君達があの時、急に店を出て国道沿いを歩いて行くので、止めたんだよ。 

 俺に気を使って、送ってもらうのが悪いので、歩いていったのかな、と。 

 10mくらい追って行って、こっちが話しかけても、君らがあんまり無視するもんだから、

 こっちも正直、気ィ悪くしちゃってさ。

 どうしたのさ?(笑)」 

…どういう事なのか。

俺達は確かに、あのキャンピングカーがコンビニに止まり、レジで会計も済ませているのを見ている。

会計したのは店長だ。もう1人のバイトの子もいたが、あがったのか今はいない様だった。 

店長もグルか??不安が胸を過ぎった。カズヤと目を見合わせる。 

「すみません、ちょっとトイレに」とカズヤが言い、俺をトイレに連れ込む。 

「どう思う?」と俺。

「店長がウソを言ってるとも思えんが、万が一あいつらの関連者としたら、って事だろ? 

 でも、何でそんな手の込んだ事する必要がある?みんなイカレてるとでも?まぁ、釈然とはしないよな。 

 じゃあ、こうしよう。大事をとって、さっきの運ちゃんに乗せてもらわないか?」 

それが1番良い方法に思えた。

俺達の意見がまとまり、トイレを出ようとしたその瞬間、 

個室のトイレから水を流す音と共に、あのミッ○ーマ○スのマーチの口笛が聞こえてきた。 

周囲の明るさも手伝ってか、恐怖よりまず怒りがこみ上げて来た。それはカズヤも同じだった様だ。 

「開けろオラァ!!」とガンガンドアを叩くカズヤ。ドアが開く。 

「な…なんすか!?」

制服を着た地元の高校生だった。 

「イヤ…ごめんごめん、ははは…」と苦笑するカズヤ。 

幸い、この騒ぎはトイレの外まで聞こえてはいない様子だった。 

男子高校生に侘びを入れて、俺達は店長と談笑するドライバーの所へ戻った。

「店長さんに迷惑かけてもアレだし、お兄さん、街までお願いできませんかねっ。これで!」 

と、ドライバーが吸っていた銘柄のタバコを1カートン、レジに置くカズヤ。交渉成立だった。 

例の変態一家の件で、警察に行こうとはさらさら思わなかった。

あまりにも現実離れし過ぎており、俺達も早く忘れたかった。

リュックに詰めた服が心残りではあったが… 

ドライバーのトラックが、市街に向かうのも幸運だった。

タバコの贈り物で、終始上機嫌で運転してくれた。 

いつの間にか、俺達は車内で寝ていた。

ふと目が覚めると、ドライブインにトラックが停車していた。 

ドライバーが焼きソバを3人分買ってきてくれて、車内で食べた。 

車が走り出すと、カズヤは再び眠りに落ちた。

俺は眠れずに、窓の外を見ながら、あの悪夢の様な出来事を思い返していた。

一体あいつらは何だったのか。トイレの女の子の泣き声は… 

「あっ!!」

思案が吹き飛び、俺は思わず声を上げていた。

「どうした?」とドライバーのお兄さん。 

「止めて下さい!!」 

「は?」 

「すみません、すぐ済みます!!」 

「まさかここで降りるのか?まだ市街は先だぞ」と、しぶしぶトラックを止めてくれた。 

この問答でカズヤも起きたらしい。 

「どうした?」

「あれ見ろ」

俺の指差した方を見て、カズヤが絶句した。

朽ち果てたドライブインに、あのキャンピングカーが止まっていた。 

間違いない。色合い、形、フロントに描かれた十字架…しかし、何かがおかしかった。 

車体が、何十年も経った様にボロボロに朽ち果てており、全てのタイヤがパンクし、窓ガラスも全て割れていた。 

「すみません、5分で戻ります、5分だけ時間下さい」とドライバーに説明し、

トラックを路肩に止めてもらったまま、俺達はキャンピングカーへと向かった。 

「どういう事だよ…」とカズヤ。こっちが聞きたいくらいだった。 

近づいて確認したが、間違いなくあの変態一家のキャンピングカーだった。 

周囲の明るさ・車の通過する音などで安心感はあり、恐怖感よりも「なぜ?」と言う好奇心が勝っていた。 

錆付いたドアを引き開け、酷い匂いのする車内を覗き込む。 

「オイオイオイオイ、リュック!!俺らのリュックじゃねぇか!!」

カズヤが叫ぶ。 

…確かに、俺達が車内に置いて逃げて来た、リュックが2つ置いてあった。 

しかし、車体と同様に、まるで何十年も放置されていたかの如く、ボロボロに朽ち果てていた。 

中身を確認すると、服や日用雑貨品も同様に朽ち果てていた。 

「どういう事だよ…」

もう1度カズヤが呟いた。

何が何だか、もはや脳は正常な思考が出来なかった。 

とにかく、一時も早くこの忌まわしいキャンピングカーから離れたかった。 

「行こう、行こう」

カズヤも怯えている。

車内を出ようとしたその時、キャンピングカーの1番奥のドアの向こうで、「ガタッ」と音がした。

ドアは閉まっている。開ける勇気はない。

俺達は恐怖で半ばパニックになっていたので、そう聴こえたかどうかは、今となっては分からないし、 

もしかしたら、猫の鳴き声だったかもしれない。

が、確かに。その奥のドアの向こうで、その時はそう聴こえたのだ。 

「マ ー マ ! ! 」 

俺達は叫びながらトラックに駆け戻った。

するとなぜか、ドライバーも顔が心なしか青ざめている風に見えた。 

無言でトラックを発進させるドライバー。 

「何かあったか?」「何かありました?」 

同時にドライバーと俺が声を発した。

ドライバーは苦笑し、 

「いや…俺の見間違いかもしれないけどさ…あの廃車…お前ら以外に誰もいなかったよな? 

 いや、居るわけないんだけどさ…いや、やっぱ良いわ」 

「気になります、言って下さいよ」とカズヤ。 

「いやさ…見えたような気がしたんだよ。カウボーイハット?って言うのか? 

 日本で言ったら、ボーイスカウトが被るような。それを被った人影が見えた気が… 

 でよ、何故かゾクッとしたその瞬間、俺の耳元で口笛が聴こえてよ…」 

「どんな感じの…口笛ですか?」

「曲名は分かんねぇけど、こんな感じでよ(口笛を吹く)…いやいやいや、何でもねぇんだよ!俺も疲れてるのかね」

運転手は笑っていたが、運転手が再現してみた口笛は、ミッ○ーマ○スのマーチだった。 

30分ほど、無言のままトラックは走っていた。

そして市街も近くなったと言う事で、最後にどうしても聞いておきたい事を、俺はドライバーに聞いてみた。 

「あの、最初に乗せてもらった国道の近くに、山ありますよね?」 

「あぁ、それが?」

「あそこで前に、何か事件とかあったりしました?」 

「事件…?いやぁ聞かねぇなぁ…山つっても、3つくらい連なってるからなぁ、あの辺は。 

 あ~でも、あの辺の山で大分昔に、若い女が殺された事件があったとか…それくらいかぁ? 

 あとは、普通にイノシシの被害だな。怖いぜ、野生のイノシシは」 

「女が殺されたところって」

「トイレすか?」

カズヤが俺の言葉に食い気味に入ってきた。 

「あぁ、確かそう。何で知ってる?」 

市街まで送ってもらった運転手に礼を言い、安心感からか、その日はホテルで爆睡した。 

翌日~翌々日には、俺達は新幹線を乗り継いで地元に帰っていた。

なるべく思い出したくない、悪夢の様な出来事だったが、時々思い出してしまう。 

あの一家は一体何だったのか?実在の変態一家なのか?幻なのか?この世の者ではないのか? 

あの山のトイレで確かに聞こえた、女の子の泣き叫ぶ声は何だったのか? 

ボロボロに朽ち果てたキャンピングカー、同じように朽ちた俺達のリュックは、一体何を意味するのか? 

「おっ♪おっ♪おま○こ おま○こ 舐めたいなっ♪ペロペロ~ ペロペロ~」 

先日の合コンが上手く行った、カズヤのテンションが上がっている。

たまに遊ぶ悪友の仲は今でも変わらない。 

コイツの底抜けに明るい性格に、あの悪夢の様な旅の出来事が、いくらか気持ち的に助けられた気がする。 

30にも手か届こうかとしている現在、俺達は無事に就職も出来(大分前ではあるが)、普通に暮らしている。 

カズヤは、未だにキャンピングカーを見ると駄目らしい。

俺はあのミッ○ーマ○スのマーチがトラウマになっている。 

チャンララン チャンララン チャンラランララン チャンララン チャンララン チャンラランララン♪ 

先日の合コンの際も、女性陣の中に1人この携帯着信音の子がおり、心臓が縮み上がったモノだ。 

今でもあの一家、とくに大男の口笛が夢に出てくる事がある。

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