村はずれの小屋(後日談)

2017.02.12.Sun.16:07

小屋が無くなってから数日後、Jの友人(A)と共通の友人(B)とで集まった時に、

Bが「Cから聞いたんじゃが、なんでも夜中に、鬼婆の霊がCの家の戸を叩きよるらしいで」と話した。 

家に帰り、その事を父に伝えると、

「人は死んだら戻って来るでな。なーに、49日が過ぎれば無事成仏するで、気にする事ぁねえ」

「でも、なしてCの家に戻るのね?自分の家に戻りゃあええのに」

「梅さんは少し変わっていたでな。帰る家を間違がえてるだけだで」とアッサリ言ったので、

Jは「なんだ、あたりまえの事なのか」と思った。 

ところがそうでは無かった。

どうもCの親が、くじ引きか何かで梅がいた小屋を燃やす役目になってしまい、

それが梅の恨みを買ってしまったらしいのだ。

それは近所の大人達が、

「Cの家に、またイブシがやって来しゃったらしい」

「小屋を燃やしたもんで、怨みを買うたんじゃろ」

と話をしていたのを聞いたからだ。 

このイブシ?(聞いた事のない言葉だったので忘れてしまったらしい)という言葉は、

この村だけのいわゆる『隠語』というやつで、恐らく『幽霊』の意味ではないかとじっちゃんは言った。

大人達は、「梅の霊の事は村民以外には話すな。話すと霊がその人の前にやって来る」と言うので、

それを恐れた子供達は、誰1人として話さなかった。

また、大人達は隠語を使う事により、うっかり他の場所で喋っても、村の恥部が他人に漏れずに済む。

とにかくそこの村民は、自分の村を守る事に必死だったらしい。 

夜な夜なやってくる梅の霊に、Cの家族は疲れてしまったのか、

「わしらも子も眠れんで困っとる。家を出るしか無かろうか?」と、Jの家に相談にやって来た。 

Jの父は、

「しばらく家を捨てるしかあるまい。

 最悪、あの家は一度ばらしなすって、作り直しゃあええ。

 その間は家に住みなっせい」 

こうしてCの家族は、Jの家に同居する事に。

さっそく自分の部屋で、JはCにこう聞いた。

「なぁなぁ、Cは鬼婆のお化けを見たんか?」

「見とらん。ただ、家のドアを叩く音が毎晩するんじゃ」

「風とかじゃ無かろうか?」

「知らん。

 最近は耳に布切れ押し込んで寝てまうで、音は聞こえんが、

 一晩中電気がつけっぱなしなもんで、全然眠れんわ」 

「おい。今日のイブシ除けは済みなすったか?」と、父が母に指図をする。

イブシ除けとは、いわゆる『魔除けの一種』で、玄関の軒先に、スルメや餅や果物等をぶら下げておくのだ。

この村では、人が死ぬと毎度行う儀式だった。 

「朝になると、吊るしておいた食い物が無くなっとるんじゃ」とCは言うが、

「いや、猿に持っていかれたんじゃろうて」とJは否定した。 

それでもJは不安だった。

「Cの家族が家に来た事で、鬼婆も家にやって来るんじゃなかろうか?」と、嫌な予感があった。

そして夜、Jの隣ではCがぐっすりと寝ている。

耳から詰めた布が、はみ出しているのが可笑しかった。 

下の階では、ガヤガヤと大人達の声がする。

しばらく天井をボーッと見ていると、「ドンドンドン」と太鼓のような音が響いた。

同時に大人達の声も、一瞬ピタリと止んだ。 

Jの予感は適中した。梅が家の玄関を叩いてるのだ。

Jはそう思うと恐くなり、ユサユサとCを揺り起こした。

「ううん・・・なんねー」と寝ぼけるCに事情を説明。

共に震えながら、大人達のいる1階に降りて行く。

大人達はボソボソと何かを喋っている。

Jが怯えながら「お父・・」と言うと、「気にする事ぁねえで、さっさと寝なっせ」。

またガヤガヤと、大人達は別に気にする事なく、普通にビールを飲みはじめた。

次の朝、Cと一緒に玄関を出ると、魔除けの食い物が無くなっていた。

「な?俺の言う通じゃろ?」とCが言う。

その事を親に聞くが、「あれは朝1にしまい込むでな」と答えるだけであった。 

そしてソレはしばらくの間続いたが、ドアをノックする音がしなくなると、

「ああ、49日が終わったのだな」と思った。 

その村では、49日が過ぎるまで墓を作らなかった。

遺体は火葬か土葬をしておき、49日が来るまでは「魂を遊ばせておく」そうだ。 

村のはずれには集合墓?があり、村人はここに埋められ墓が作られる。

しかし、梅の墓は別の場所に作られる事になった。 

「御先祖様の墓とキ○ガイの墓を一緒にするのは申し訳ない」という理由だそうだ。 

死んでもなお村人として扱われない梅に、Jは少し同情したが、

怒られるのが恐いので、口にする事はしなかったそうだ。 

そして、梅の墓は川原に作られた。

墓といっても1、2本の縦長の板で出来た簡易な物で、

さらにその回りには囲いも何も無く、「ただポツンと立っていた」そうだ。

しかも、川のすぐそばに立てられている為、ちょっと強い雨が降ると、増水した川に流されてしまう。

実際梅の墓は、1ヶ月もしない内に流されてしまった。 

流されるという事は、人に忘れられてしまう。まさに『水に流す』のである。

流されてしまってはしかたがない。俺達は悪く無い。

そんな『自分勝手な不可抗力』という名の殺人や非道が、その村ではあたりまえに行われていたらしい。 

身内がそばに居ないというだけで、人1人が村ぐるみで消されてしまう恐怖。

そして、それをあたりまえと思う大人達に、Jは恐怖した。

「自分も大人達の機嫌を損ねたら、何されるかわからん」と・・・

だから、その村では大人が絶対であり、いわゆる『不良』と呼ばれる子供もいなく、

子供は大人達の従順者であった。 

「村落という閉鎖的な場所で、独自的な文化を持つというのは恐ろしい事で、そこでの常識は常に非常識だった。

 あのまま村で大人になったら洗脳されて、あの大人達と同じになっていただろう。

 だからお前は、たくさん友人を作って、色んな人の意見に耳を傾けて、

 常に自分の行動に間違いが無いか疑問を持て」

と、死んだじいちゃんは語ってくれた。

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