死体のフリをして

2017.02.27.Mon.16:11

ある田舎でのお話。

マサオはいつだってニコニコしていた。すこし頭が弱いところもあった。その為、いつもいじめられていた。

中でも特にガキ大将のタロウは、おもちゃのようにマサオをいたぶって弄んだ。

時々、見かねてかばってくれる人もいたが、

マサオは殴られて赤黒くに腫上がった顔で、ニコニコしながら「えへへ」と笑うだけだった。

ある夏の夜。村中の悪ガキを集めてタロウが言った。

「先週死んだ山田のジィさんを掘り起こして、死体を背負ってここまで持ってこい。

 それできたら、お前ぇの事、もういじめねえよ」

「勘弁してくれ。オラ、怖いの苦手だ」

「うるせぇ!今夜夕飯食ったら、山の入り口に集まれ。マサオ、逃げんじゃねぇぞ・・・」

タロウには考えがあった。

先回りして自分が山田のジィさんの墓に入り死体に成り済ます。何も知らないマサオが自分を背負う。

その時にお化けのふりをして脅かしてやろう。

そんで、山から出たら皆で大笑いしてやろう。

日が落ちて山の入り口。

悪ガキどもが集まった。マサオもいた。いつもの様にニコニコして、でも明らかに怯えきっていた。

そして、皆にせかされマサオが一人山に見えなくなると、タロウも急いで山の中へ消えていった。

真っ暗な山の中。明かりは手に持ったろうそくの炎だけ。

マサオは山々の出す音に肩をふるわせながら半刻ばかり歩き、

つい最近掘り起こされたような真新しい土盛りの前に辿り着いた。山田のジィさんの墓だ。

「ホントにすまねえが、今夜ばっかりは、俺におぶられてくれぇ」

独り言を言いながらマサオが墓を掘り始めると、先回りして墓の中にいたタロウは笑いが止まらなかった。

『マサオのやつ、びびっておっ死んじまうんじゃねぇか』

ようやく墓を掘り起こす頃には、ろうそくの炎はとうに燃え尽き、墨汁で染めたような暗闇。

「ジィさん、オラ、こわくてたまらんけぇ、これから村まで走っていくからよ。

 ジィさんを落とすような事があったら、それこそ申し訳ないからな、くくらせてもらうよぅ」

そう言いながら背中にタロウを背負い、真っ赤な帯でしっかり自分と結びつけたマサオは、

山の入り口に向かって一気に走り出した。

タロウは笑いをかみ殺すのが精一杯だった。

こいつは本当に間抜けの大バカもんだ。

どんな顔をしてるんだろう。きっとこれまで見た事もない間抜けな顔をしているぞ。小便も漏らしるんじゃねぇのか。

マサオの背中の上でほくそ笑んだ。

帰り道も半分にさしかかった頃。ようし、そろそろ脅かしてやれ。タロウはマサオの耳元で囁いた。

「おろせ~」

一瞬、マサオの方がビクッと固まったが、足が止まる事はなかった。

「おろさんと、祟るぞ~」

「じぃさん、勘弁してくれぇ、勘弁してくれぇ」

マサオの足はそう言いながらも山の入り口へ向かう。

タロウは思った。これはまずい。

このまま村まで帰られると、マサオを笑い者にしようと墓荒らしをしたことが、村の大人達にもバレてしまう。

「おろさんと耳を食いちぎるぞ~」

タロウも必死だった。村はもうすぐそこだ。このままマサオを返すわけにはいかない。

タロウが耳に齧りついてもマサオは走り続けた。顔を涙と鼻水でグチャグチャにしながら。

「じぃさん、勘弁してくれぇ、勘弁してくれぇぇぇぇぇ」と叫び続けながら。

そして、ついにマサオの耳は、根元からブチッと鈍い音を立ててとれた。

その時、マサオの足が止まり呟いた。その声は妙に冷ややかだった。

「ようぅ・・・オラが、こんなにお願いしてもだめか・・・?」

・・・?

「オラが、ずっと虐められればいいと思ってるんだな」

・・・こいつは何を言っているんだ。

「だったらもうお願いしねぇ・・・。無理矢理黙らせてやる」

そう言ってマサオは、懐から大きな出刃包丁を取り出した。

タロウは度肝を抜かれた。

慌ててマサオの背中から飛び降りようとしたが、帯で縛り付けられた体はビクともしない。

マサオが自分の背中に向けて、出刃包丁を振りかざした。

タロウは叫んだ。

「ま、待て、マサオ!俺だよ、タロウだ、タロウだ!」

こいつはやっぱりアホだ。死人を刺し殺そうとしている。あやうく間違って殺されるところだ・・・。

しかしマサオは言った。冷たく小さな声で。

「そんな事、最初から分かっているわい」 

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