深夜の乗合バス

2017.03.11.Sat.16:15

これは 宮城県仙台市にお住いの星義光(仮名)さんの体験である。

その夜 彼はしたたかに酔っていた。

幼馴染みらとの忘年会で数件はしごするうち 終電がでてしまった。

他の連中は皆市内住まいだからいいのだが 星の場合は岩沼のそれも郊外ときているから大変だ。

ちょっとふんぱつしてタクシーでも拾うかと駅前のターミナルを歩いていた。

と・・・その時だ。岩沼行のバスを見たのは。

「このバスは岩沼行ですか?」運転手に聞いた。

黙って小さくうなずいた。

ずいぶん不愛想な運転手だなと思いながらバスに乗り込み座席に着いた。

車内はやけに寒い。12月だと言うのに暖房もつけずにおまけに車内灯もついていない。

乗客も7~8名位かそこそこ乗っているのに誰も何も言わずに乗っている。

発車したならまさかつけるだろうから皆黙っているのかな?・・・等と考えながらとりあえずバスが出るのを待った。

それにしても・・・だ。   何なんだ一体 あの運転手といい他の乗客といいこの気詰りしそうな沈黙は?

辺りを見渡すと子供もいる おや?ランドセルを背負っているじゃないか。こんな時間まで 塾帰りかな? お年寄りもいる。こんな夜遅くまで出歩くなんてずいぶん元気だな。

買い物帰りらしい女性もいるぞ。

そのうち 星はバスがもう既に走行中である事に気ずいた。

ガラス越しに外を見たが何も見えない。

時計を確認するも郊外に抜けるには早すぎる。

灯り一つ見えないなんて変だな・・・

そう思いながら車内をグルリと見渡した星は一瞬にして背筋が凍りついた。

さっき見たばかりの子供は頭から血を流しぐったりしている。

老人は車いすに乗って しかも鼻と口にチューブが付けられている。

女性は白目を向いて口から泡を吹いている。

他の乗客も皆すでに死んでいるみたいに青白い顔して無表情だ。

それはまるで・・・この世の地獄絵図を見ているようだ。

(いったい・・・いったい・・・これは何事だと言うのだ‼)

              (何が起こったと言うのだ‼)

驚きと恐怖で腰が抜けてしまった星は やっとの思いで這うように運転席までたどり着いた。

「おい! 一体何なんだ! 様子がおかしいぞ‼」

しかし 運転手は何も答えず相変わらずハンドルを握っている。

「おい‼ 聞こえないのか‼ 止めろ‼ あいつらを見てみろ‼」

・・・いいんですよ別に・・・

しばらく沈黙の後 運転手は話はじめた。

「皆もう・・・死んでいるんですから とりつくろう事はなにも必要ないんです。」

「後はもう 行先は決まっていますから・・・」

「ああ あなたはたしか 岩沼でしたね。」

と言い終え ギロリとした目を星に向けると運転手の顔右半分陥没していた。

「うわあああああっ‼」

星は必至の思いでバスの非常扉を開け車外に飛び降りた。

身体中に衝撃と痛みが走ったがどうやら地面が草むらだったおかげで大した怪我もなく 無事だったようだ。

しかしバスはそのまま何事もなかったように走り去り やがてテールランプも遠ざかって行った。

すると何処からともなくけたたましいサイレンの音や人のざわつく声が聞こえてきたがだんだん気が遠くなり目を閉じそのまま気を失った。

それからどれくらい時間が経過した頃だろう

 「あなた!  あなた!」

星はゆっくり目を開けた。

ここは一体何処なんだろう・・・傍らに妻がいた。

病院の一室だとわかった。

「発見が早くて本当良かったですね。それにひき逃げした犯人もすぐに捕まったそうですよ。」

看護師の女性が言う。

そうか  そうだったのか・・・。

星は駅近くの路上で轢き逃げされ その車のすぐ後ろを走っていたバスの運転手と乗客に助けられ事なきを得たのであった。

 

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コメント
佳作
 文章や用字にいくらか変な所はありますが、比較的よくまとまったいい話ですね。雑誌『幽』第26巻(2016年12月刊)に似たような話がありましたが、偶然ですかね?
 ただ、最終電車が出てしまうような時間帯にバスがあるのはおかしいと星さんは思わなかったのでしょうか? したたかに酔っていたから分からなかったのかな?

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